21話 特別
「――うーん。人間は何を食べるのかしら? ケルベロスはちょっと癖が強いわよね。だからってバフォメットは肉が硬いし……。この辺りのモンスターって食べるとなるとあんまりよね。昔はこれでも満足できたんだけど……。やっぱり人間の街って魅力的だわ」
「がぁ、ああぐぁ」
「え? 人間の街で手に入れた『あれ』を出したらどうだって? 確かにあなたには、『今回の功労者だからいいもの食べさせてあげる』なんて約束したけど……。こんなことならもっと食料を奪ってくるべきだったわね」
柔らかい感触。地面じゃない。これは……ベッド?
いや、それより俺……死んだはずじゃ
「あ。起きたわね、ご主人様。ずっとうなされてたから心配したけど……。うん。異常はなさそうね」
「お前……」
「お前じゃなくて、オロチ……。いえ、それはモンスター名に過ぎないから……。そうだなあ、私のユニークスキルから名前をもらって……『ハチ』ってどうかしら? 忠義を捧げるにはぴったりの名前だと思わない?」
「……。随分人間の文化に詳しいんだな」
「ま、そのために人間の街を襲っているんだから、当然よ。ほら、ご飯ができるまでこれでも飲んで。大丈夫よ、これも人間の街で奪ったものだから」
得意げな表情を見せるハチは両手に持っていたマグカップの1つを手渡してきた。
これはお茶、か。
しかも、淹れたてで熱い。
熱さを感じるってことは、夢の中でも天国でもないらしい。
「ハチ、ここはどこだ?」
「ダンジョンよ。当然じゃない」
「自分が生きている時点でそれは分かった。俺が言いたいのは、こんな『人間の住むような家』がある階層というのを知らないということでだな」
「知らない……。それはそうか。私が生まれた時から今まで、ここに人間が来たことなんてなかったから。えっとね、ご主人様。ここは30階層。私がやっとのおもいで占領した階層よ」
「占領……それって」
「んー。その辺りはちゃんと話すと長くなるのよねえ。だから、端的に言わせてもらうし、あんまり言及しないで欲しいんだけど……。つまり、私はダンジョンに選ばれたモンスター。特別ってこと」
「特、別?」
「ええ。私が特別なのだからご主人様も勿論特別。そんなとぼけたような顔ばっかりしてないでもっとしゃきっとしなさい。……。ほら、特別ついでに今日はこれを作ってあげるから」
そう言ってハチはテーブルに置いてあったカップ麺を嬉しそうに見せてきた。
その仕草1つ1つがまるで人間。特別、それを言葉だけでなく挙動で見せつけられているような気分だ。
そもそも人間の言葉を操る時点でこいつは……
「……。聞きたいことは山ほどだが、まず何故俺は生きてるんだ?」
「あー。そうよね。アナウンスを聞く前にご主人様は1度死んでしまったみたいだから」
「死んだ? 俺が?」
「ええ。でも、私と契約を交わしたことでご主人様は私のユニークスキルの影響を受けるようになった。この説明だけで理解できるわよね?」
「そうか……。俺はお前の、その竜と同じ――」
「いいえ。それは違うわ。ご主人様は、私たちを束ねる存在になった。つまりは私たちの中で最高の序列に就いたってこと。私たちの目も脚も手も、もう全てがご主人様のものなの」
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