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209話【苺視点】止められない

「――はぁ、はぁ……。ふぅ……」



 視界が明るくなった。

 手も足ももう動く。


 どれくらいの時間が経ったのかはわからない。


 でもかなり集中していたからなのか、それともスキルの仕様なのか、ずっと息を止めていたみたいで途端に苦しくなった。


 一生懸命呼吸をしてなんとかもとに戻った、と思ったけど……。



「あっ……」



 今度は封を切ったみたいに涙が溢れそうになる。


 必死に押さえ込む。


 だって私はもう大人。

 泣いてばっかりの、あの時の私じゃない。


 また心配させちゃいけない。


 目の前にいるスキルイーターは私を見て何も感じない……そんな風にはもう思えない。



「い、ちご……」



 また私の名前を呼んだ。

 スキルイーターはじっと私を見てる。



「私のお母さん、お父さん……。これが、私の……」



 スキルイーターの壁越しの手に私も合わせようとする。


 するとスキルイーターの身体はびくんと跳ねて、威嚇するみたいにうなり声をあげた。


 その姿はまさにモンスター。

 攻撃こそしてこないけど、本能的として敵意を向けてくる。



 ――うがあ!



 そしてしばらく経つと奥の方から一際大きな個体が現れて、一声。


 新しく降りてきた個体も集めてなにやら列を組始めた。


 きっと、ダンジョン街に侵攻するための陣形を作ってるんだ。



「う、う……」

「あ……。行っちゃっ、た……」



 拒む様子も見せながらもお父さんとお母さんでできたスキルイーターは振り返って奥へ。


 私の目の届かないところへ走り去ってしまった。



「は、あはは、苦しい。苦しいな。なんでかな。ずっと……ずっと知らなかった。いなかったはずなのに……。苦しいよぉ」



 勝手に膝が落ちる。


 胸が苦しくて押さえる手が離せない。


 こんなことなら、知らない方がよかったのかもしれな――



「心配かけさせたくないからの仏頂面ってわけね。なるほどなるほど。でもだからって、俺の前まで我慢する必要はなし! どんな顔してたってこんだけ長く付き合ってればバレバレなんだからさ! ……。それに、こうすれば誰にもその顔を見せなくて済むだろ?」

「みや……」



 あの映像をみやも見てた。

 それで、みやは私のことも見てた。


 それなのにみやはあくまでいつもみたいにとぼけ顔で私の前に立って、気楽に話しかけてきて……初めて会ったとき、震える私を温めてくれた時みたいにそっと抱いてくれた。



「み、や……う、ぅ」

「案外難しいかもしれないけど、考えるのは後々!それに頭を使うのは俺の分野! 苺はその時まで体調管理!……だから、今はそのまま撫でられててくれ」



「――う、わああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



 我慢してた声が、涙が、みやのせいで一気に爆発。


 こうなったらもう止め方なんてわかんない。



「よしよし、本当に可愛い妹分だね苺は。苺は知らない方が良かったなんて思ってるかもしれないけど、俺はこんな可愛い娘のご両親を知れて良かったと思ってる。だってこれでちゃんと感謝できるから。俺に苺と出会わせてくれて、なんだかんだ楽しい日々にしてくれて、ありがとうって。……って、今のは流石に恥ずかしいか。あはは」



 それでもみやは怒らないで、むしろ笑って、ずっと私の頭を撫で続けてくれた。

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