208話【苺視点】完成
「――うっ……」
「逃がしたか……。致命傷のはずなんだけど、まったく退こうとしなかったのは母親の意地ってやつなのかな。スキルイーター……飼い犬に手を噛まれただけでも不愉快だったのに、ここまで思い通りにいかないと逆に笑えてくるよ」
そう言いつつも神宮の顔は険しくて、気味が悪い。
しかもお母さんを刺した剣をギコギコ動かしてわざわざ苦しませるのはすっごく性格が悪い。
「ふ、ふふ……。あなたもそんな顔するのね。そっちの方が人間らしくて素敵よ」
「……安い煽りだね。さしづめ子供を追わせないための時間稼ぎってところかな?いいよ、乗ってやる。だから、いい声で鳴け」
神宮は思い切り剣を刺し抜くと、それを振り上げて斬りかかった。
動きに躊躇も無駄も見えない。
スキルばっかりに気をとられてしまうけど、ステータスだけじゃ推し測れない戦闘能力の高さも脅威。
会話からして神宮はそんなに戦闘が得意なほうじゃないらしい。
だとするとこの人たちはきっとそういった訓練を受けている、そのための施設や指導が充実しているんだと思う。
「う、があああああああああああ!!」
「なに!? 剣が……振り切れない!」
神宮の剣がお母さんの首に触れる直前に発せられた絶叫。
それによる振えは凄まじく、発生源となっているお母さんの身体も超振動。
致命傷に至る寸前のところ、本当の意味で首の皮1枚で剣は止まった。
しかもその振動により貫かれた箇所の止血もされたみたい。
お母さんは攻めに関しては全然だったかもしれないけど、今の私ができない守りの部分で振動を利用できてる。
そうか、このスキルってここまで便利だったんだ。
「本当に魅力的なスキルだ。これならあの人たちも喜ぶだろうさ。だけどね、ちょっとうるさすぎるな。……。『念時』、『念時』、『念時』……」
神宮は剣を握ったまま、スキルを連発。
その度に止まっていたはずの剣はちょっとずつ進んで進んで……。
「あな、た、苺……」
――ボト。
もがく手は神宮に届かず、声も弱々しくなって……その瞳から涙が溢れるとお母さんの頭は地面に落ちた。
「まずったな。やり過ぎた。活力が尽きる前にスキルイーターに喰わせないと……。でも、ここに生きてるやつだてもういないか……。なら上まで持ってかないとレアスキルが台無し。あー、こりゃあの子供を追うのは無理っぽいな」
お母さんの頭と身体を拾い上げた神宮は、黒こげになったお父さんの身体目掛けてそれらを放り投げた。
そしてやれやれといった様子で自分もそこまで移動を完了させるとその場から姿を消した。
こうして幼い私は助かった。
お父さんとお母さんは命をかけて私を助けてくれた。
嬉しいけど、悲しくて……胸の奥からなにかが込み上げてくる。
――ヴン。
そしてそんな私のことなんか気にしないまま、また映像が切り替わった。
場所は研究所。
映ったのは細切れにされていくお母さんと、その肉に混ぜ込まれていくお父さんの灰。
練られて形成されて、魔法陣の上に立って……それは出来上がる。
腐敗を防ぐため薬に漬け込まれ、暗い場所に閉じ込められ……。
「い゛ぢ……」
スキルイーターとなった2人が苦しそうに産声をあげたところで映像は途絶えた。




