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206話【苺視点】そっと

「揺れるけど我慢してね!私も、痛いの我慢するから」

「うん……」



 藍は私を走りながら抱えあげた。


 角が折れて、その痛みと衝撃、或いは暴れまわるための根源が消えたのか、藍はすっかり元の口調に戻っている。



「『捻時』」



 さっきまでの勢いが見られない、とはいえ一度覚醒した藍の敏捷性は凄まじい。


 筋肉の膨れた脚が力強く地面を蹴り、まるで飛ぶよう。


 だけど、それを見ても余裕な素振りを見せていた神宮がここで動いた。


 スキルを呟き、ないもないはずの空間でなにかを掴むように右手をぎゅっと握って、そのまま右に大きく振る。


 すると、その辺りで風が吹き神宮の髪が後になびいた。



 大きくて重い扉、それを開いた時のそれに似てる。

 なにもないはずなのにあるように感じる。



「よっと……」



 そして神宮は何か跨ぐように一歩。


踏み出した足は消えて……何十メートル先でそれは現れた。


それをゆっくりと連続で2歩、3歩。


あっという間に神宮は藍の前まで移動を完了させた。



「これはワープスキル?スキルイーターで使える個体がいたから人間でもあり得るとは思っていたけど……。人間の中でも上位の存在になればこれだけのスキルが発現していてもおかしくはないのかしら?」

「発現は違うかな。これは取り込んだだけで、元々俺のものじゃない。ま、研究の成果だね。それとワープスキルは近いけど、ちょっと違う。あんなに使い勝手は良くないし、俺じゃなきゃ立ってるのもきついくらい身体的対価がある」



 額の汗をハンカチで拭いながら丁寧に説明。


 疲れてはいるけど、対価の支払いがあったなんて思えないくらいの涼しい顔。


 思い返してみると神宮って狼狽えたり、驚いたり、そういった表情を浮かべるイメージがない、かも。



「研究……」

「そう。だから普通のモンスターにしてはレアなスキルを持っている君と、一応子供も連れて行きたいかな。あんなになっちゃってはいるけど旦那さんもまだ活かせられるから、仲良く地上にお出掛けできると思って大人しくついてきてよ」



 お父さんの意識はないはず。

 だけどこの言葉と映像が続いているということは、この時においてもその経験は蓄積されてるってこと。


 ダンジョンでの死って、私たちが思う死とは違うところがあるのかもしれない。



「あの人が活かせられる……。じゃあ生き返らせることは――」

「できない。今の技術力とここまで集めたスキルじゃ無理。ごめんね、変な期待をさせて」

「ううん。むしろ決心がついた。あなたと戦う決心が」

「旦那のところへ向かうつもり、と。仲睦まじいのはいいけど、そんな簡単に死ねるとは思わない方がいいよ。あそこは、研究所はなかなかえぐいことするからさ」



「……。……。……。私はそれでもいい……。でも……。苺、あなたは逃げなさい。多分だけどあれに頼めばなんとかなるわ」

「マ、マ……。や……。や! や! いやっ!」



 決意を固めた藍は私を下ろすとそのまま視線を合わせるために膝を曲げた。


 2度目の別れ、それを私は必死に拒んで、泣いて、首を何度も振った。


 すると藍は困った表情を見せて私の頭に、まだ小さい伸びかけの一本の角にそっと触れた。

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