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205【苺視点】お父さん

「苺、最後にその顔近くで見せてくれ」

「パ……パ?」



 口から血を流しながら、穴の空いた身体をくるりと振り返らせると、蒼社は膝を地面に着けて私の顔をじっと見つめた。


 そして右手で私の顔を額から顎にかけて撫でる。


 その顔は今までに見たことがないほど穏やか。


 苺の存在が、藍と愛し合った数年が蒼社を確実に変えてしまったのだ。


 上位も下位も、人間もモンスターもない。

 そこにはただ父親と子供がいるだけだ。



「はは、やっぱり藍に似て美人さんだ。大きくなったら人間にも……モンスターにもモテモテ間違いなし。俺の子なんだ、きっとどっちとも仲良くなれる。そういう才能が苺にはある。……だからこそ、見たかったなぁ。大きくなった苺のこと」

「パっ――」



 涙声の蒼社を励まそうとしたのか、また私は呼び掛けようと口を開いた。


 だけどそれをするよりも先に蒼社は私を胸の内で抱き留めて、頭に優しく口づけをした。



「『環境順応』。対象は自身ではなく、目の前の、俺の娘――」




「あ゛……」



 ――バン!!



 藍の気の抜けた声。


 それに気をとられて蒼社がスキルを発動しきるところを見ることができなかった。



 ダンジョン内が白くなる。

 あまりに大きな爆発音で鼓膜が破けそうになる。


 きっと今頃蒼社はこれに巻き込まれて……最後の瞬間を、その顔を、スキルの発動を、見届けることは昔も今もできなかった。


 でも、分かる。


 蒼社はきっちりスキルを発動させた上で、笑ってたって。

 だって私には今もその効果が残ってる。


 ちょっと戦いが好きなところもあるけど、モンスターといっぱいいっぱい分かり合えて……その度温かいから。



 幼すぎて覚えてなかったけど、蒼社……お父さんはずっと私に寄り添ってくれていたんだ。



「……あ、なた。あれ、私……。なんで……。なんで……。なんで!!」

「……パパ」



 視界が開けた。


 するとそこには真っ黒になって、塵になって、風に舞うお父さんと、それに包まれる私、そして以前の顔つきに戻った藍の姿があった。



 藍はお父さんの姿を見るなり泣き崩れ、地面をひたすらに叩く。


 悲しさより、こんな結末を招いた自分に対して怒ってるみたい。



「――美しい! 美しい死に様だった!美しすぎてつまらないくらいに!で、最も肝心な君たちのその顔は……見ていてゾクゾクが止まらない。あー、満足満足。あ、勘違いしないで欲しいんだけど、俺はこれでもましな方だから。上の奴らと違うって点、理解しておくれ」

「神宮……さんでしたか。あの爆発で傷ひとつないのね」

「あなたも、ボロボロな見た目の割に随分喋るじゃないか。それだけ元気だと……後処理がめんどうなんだけどな」

「い、苺! 逃げるよ!」

「マ、マ……パパが――」



 各々落ち着くことないまま、いくらかの時間が経った。


 そうして私まで虚無感に包まれていると、どこからともなく神宮が現れた。


 そしてやれやれといった様子で両手が伸ばされると、藍は必死の形相で苺のもとへ駆け出した。



「速いねぇ。こんなことでスキルをなんか使う気はなかったけど……使わないといけないくらい覚醒してくれたことを今は喜ぶとしようかな」

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