203話【苺視点】狂気
「次は……お前。ふ、ふふ……はははははは!!」
「藍!! しっかりしろ!! なんでそんなになっちまったんだよ!!」
「パ……パ……。マ、マ……」
「苺……。大丈夫だから、心配するな」
ゆっくりゆっくりと蒼社と私に近づいてくる藍。
おそらくは人間を殺したくないっていう感情と、殺すのが楽しくてしょうがないっていう感情がぶつかっているから……大きな笑い声に対して顔は辛そうで、殺すなんて言葉の割に動きは鈍い。
ちぐはぐで狂気に満ちた姿の藍は恐ろしくて鳥肌が立つ。
戻す方法は私でも思い浮かばない。
けど、逃げようと思えばそれは可能なはず。
それにここまでただ傍観していたあいつだっている。
「中にはまだスキルイーターが、移動用に使ってた奴がいるはず。死んでなかったら、だけど……頼む! 急いでここまで来てくれ!」
雷竜の雷によって藍のいた周りは真っ黒。
でも、スキルイーターたちを飼っている倉は無事。
所々それが当たった形跡はあるけれど、火がついたりしていないのは、建物がスキルよって作られていて普通のものよりも頑丈……だからだと思う。
「あ、あ……」
「無事だったか。でもスキルを使って移動は……そう何回もできそうにない、か」
呼び出しに答えて倉から姿を現したスキルイーター。
万が一のことを考えてなのか、分からないけど、とにかく地上に連れ出していなかったのが幸いしたみたい。
とはいえ、建物とは違って雷の跳ね返りをもらったのか片腕はないし、脇腹に穴も空いてる。
使えるスキルの回数どころか、生きていられる時間さえ限られてそう。
「そうはさせないよ。こんなに面白い劇を台無しになんかさせてやるもんか」
「……え?」
蒼社のもとへ向かうスキルイーターの前に立ったのは神宮。
ここまでなにもしなかっただけじゃなくて、楽しそうに足を払って転んだスキルイーターの背中の上で座る様子にこっちまでイライラしちゃう。
「いやぁ、死んじゃった探索者の女の子を見た時から俺は観客として楽しませてもらおうって決めたんだよ。悲痛の顔、劇的な最後、旦那と子供を襲いたくないのに、襲うしかない妻……ドラマよりドラマだよこんなの!」
「……結局あなたも狂ってたってことか。これだから上の人間って……」
「他と同じにはして欲しくないなぁ。俺は愉悦するためだけでここまではしないって」
「ならなんで……」
「洗脳の解除を促すような君の働きは最悪だった。だから、制裁は加えないと。にしても、まさかあの探索者たちが君の奥さんを覚醒させるなんて……思った以上の働きだったね 」
「知ってて、逃がしたのか?あいつらが俺の家族を狙ってたことを」
「いやいやいや。そんなことになったら面白いし、罰もグレードアップするとは思っていたけど、ここに来るまではスキルイーターに食わせる気満々だったさ。でも……人間って本当に現金だよね」
「クズが」
「ほらほら、逃げないと奥さんに食われるよ。奥さんも早くしないと逃げられるよ」
両手を叩いて2人を急かす神宮。
でもなぜか蒼社は動かない。
「に、げて……。う、あああああ!なんで、逃げない、の!」
「ん? あ、そうか! そういうことか! 罠の起動で、君に仕掛けられたそれも起動しちゃったのか!」
外で罠師と戦った時、あの時に蒼社の身体にも罠が仕掛けられていたらしい。
それでも、完全に動けなくなったわけじゃない蒼社は腰に手を当てて剣をゆっくりと引き抜く。
「あはははははははは!! 流石に君も死ぬのは怖いみたいだね! 奥さんを殺そうってのかい? これは、凄い映像が見れそうだ!」




