201話【苺視点】白雷
「う、ぐぅう……」
「く、来るぞ! 早く子供を捕まえろ!」
「俺がか!? 馬鹿言わないでくださいよ!! そんなことすれば今度は俺の身体がバラバラにされちまう!」
「なら、お前は起動の準備! 俺は子供を連れて誘導する!!」
「それくらいなら……くそ、ここまで努力してたってのに、オーガの方が強くなってるなんて……」
2人の男、あの顔はおそらく初めて藍と蒼社が出会った日にいた探索者。
その身体はより筋肉が付いたようで厚く、持っている盾は小さく見えてしまう。
この状況でリスクを省みず動ける原因の1つに自信があるのは間違いない。
パッと見た感じだけど、今の探索者の中でもS級に入りそうな雰囲気はあるかな。
人によってはみやの方が弱そうに見えるかも。
「――苺!!」
そうして探索者の内の1人が私を捕まえようと駆け出した。
すると、それをさせまいと蒼社が大声で私の声を叫んだ。
後先考えず、とにかく守ろうとしてくれたみたいで、私のもとまで走る蒼社は今までよりも圧倒的に速い。
「な!? お前、どこから!?」
「リーダー! チャンスです!! こいつらを囮にしましょう!! オーガの意識がそっちに向いている内に罠を発動。それでもって……一斉に攻撃しましょう!一旦こっちに避難を――」
「いや、こっちの罠も使った方が確実に殺れるさ」
「でも、そっちって……」
「大丈夫さ。被害を被るのは間違いなく俺たちじゃあない。だってな、あれは子供も女も、人間だとかモンスターも関係ない。興味を持った奴、自分をからかうことが可能と判断した相手だけを弄ぶ……無邪気な竜だった!! ……起動準備を開始!」
「こっちも開始します! ……完了。強制発動します」
リーダーではない探索者が地面に手を当てると、魔方陣が地面に、蒼社や藍、私の足元に浮かび上がった。
そしてそれは黄色く色づくと、鞭のような電撃が顕現。
蒼社たち、3人の足を縛った。
痺れを伴うのか、これを振りほどこうとすることはできないみたい。
ただ本当は罠としてもっと別の方法でこれを発動させないといけないのか、派手な演出にしては案外地味な効果。
範囲も部屋全体じゃなくて、蒼社たちのいる辺りに限定されているみたいだし……これくらいなら藍、今のお母さんの力を限界まで行使すれば――
「大雷罠を餌さとして、転移罠を起動……現れろ雷鳴の悪戯竜よ」
――ぐぉぉお……おあ?
期待外れだなんて思っていたことに謝りたい。
だって両手を空にかざす探索者のリーダー、そのずっとずっと上、天井に浮かんだ魔方陣からほんの少し、ほんの少しだけだけど……ハチよりも遥かに迫力のある竜の口先が顔を出したから。
餌の匂いにつられ、転移なんていう罠にかかった疑念に満ちた竜の呻き声はその幼さを感じさせた。
だけどそれは一瞬。
竜はその鼻を広げて匂いを嗅ぐ仕草を見せると、自分を嵌められた存在を見つけたのか、怒りをぶつけるかのように息を吐き……。
――ドゴン!!!
遠慮などまるで感じさせない威力の白雷を……蒼社、藍、私の頭上に落として見せた。
辺りが白む。焦げた臭いで満ちる。竜の高笑いが次第に消えていく。
そして……私と蒼社を包むように背を曲げた藍の姿がくっきりと映った。




