200話【苺視点】藍相対
「――長い……」
「これだけの道を作るにはそれなりの労力がかかったはず。スキルの使用者はかなりタフ、というかオーガを殺そうって意志が強いみたいだね」
「はい。気を付けないといけない相手です。それに長いけど住みかまでのこの道筋に迷いがない。気配を察知するスキルもかなりレベルが高いかもしれません。……準備っていうのは自分たちの強さを含めてのことだったのかも」
「にしても、ダンジョンに自分たちだけの世界を作るだなんて犯罪者たちは野蛮だね。なんでそんなことを思ったのやら」
「それはその……言いにくいんですけど、スキルイーター、地上のものに触れた影響で一部の人間がですね……」
「そっか……。だとすれば洗脳使用頻度をもっと上げて……洗脳の強化、開発に力を入れてもらうしかないかぁ。ちょっと手間だけど、俺もこれをコントロールできればそれにこしたことはないし……」
階段と平坦な道が続く中、蒼社と神宮は速度を上げつつも敵の考察、また情報の共有を行う。
その中で蒼社は自分がスキルイーターを中途半端に使役していたことで、懸念していた洗脳からの解放という事態をもたらしたことを吐露した。
ただそれを聞いた神宮は怒ることなく、考え込むように頭をやや下げてぶつぶつと呟いた。
これはこれで怖い。
「あの、すみません」
私よりも恐怖を感じていたのか、罰の悪さに我慢できなくなったのか、蒼社は謝罪。
そしてそれに気付いた神宮は少し嬉しそうに顔を上げる。
「いいのいいの。別に謝らなくても。ただその分――」
――ぐおおおおおおおおおおおおおお!!!
神宮がなにか言おうとした時、今度ははっきりと、鬼気迫ったモンスターの鳴き声が轟いた。
それは目の前に見える階段の先から。
この道を揺らし、ぱらぱらと壁や天井を崩す鳴き声なんて異常。
見てるだけの私ですら心臓がばくばくする。
それに階段の先にいるモンスターって私と残りのスキルイーター、それにお母さんの藍だけだから多分これ……。
「藍……」
「……ふふ」
嫌な予感に汗を流し、蒼社は戸惑うことなく階段を下る。
するとこれが最後の階段、道の終着点だったみたいで、次第に景色が明るく明るく……
「――あ゛、だずげ……で」
『赤るく』なった。
見慣れた家、見覚えのある2人の男性、泣くこともできず震えるだけの私、蒼社と神宮に助けを求める……上半身だけになった血まみれの女性。
そして女性をそんな姿にしてしてしまったであろう……
「ぐ、あああああああ!!!」
伸び続ける2本の角が印象的で、その目を真っ赤に変えながら悶える藍。
人間よりも人間らしくて、人間よりも優しかったお母さんはどんなモンスターよりも化け物という言葉が似合う姿へと変貌を遂げていた。
「あれは、藍……なのか?嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……」
「ふ、ふふふふ……」
膝を落とす蒼社。
笑う神宮。
遂に動かなくなる女性。
それらを無視する藍は先に到着していた男性2人から視線を逸らそうとせず、男性たちも……。
「子供を返す、だから――」
「馬鹿! 折角奪った子供がいるからこいつは迂闊にてが出せなくなってんだろうが!! ビビるな! 俺たちが優位に立ってるのは変わらない!! それに……仕掛けはまだあるだろ? こいつは殺す……絶対に」
変わらず藍と相対するのだった。




