2話 上限解放
――74秒後。
全身に激痛が走った。
内臓が破裂し、折れた骨が内側からそこら中を刺し、走馬燈が流れ……いつの間にか痛みさえ感じなくなり、考えることさえも……。
……。……。……。――。
『再測定。現階層からダンジョン攻略に必要なレベルを測定。測定に際しスキルの覚醒実施。……。測定、反映。レベル上限を9999まで解放。死亡回数1を記録後、状態をリセット』
……。何も感じず何も考えられない、あれこそ無の世界。俺は完全に死んだ。
だがそこに光が射したかのように、無機質な声が流れた。
《測定計測》。昔、あの人との実力を推し量ろうとした時に発現したユニークスキル。
しかし、それは俺の思いとは裏腹に長さを測ったり、時間を計測することしかできないハズレスキル……だったはずなのだが。
「――身体は元通り。手足も動く。まさか、こんなことが可能とは……」
気づけば、落下死したはずの俺の身体には傷の1つもなく、それどころか、今までよりも調子がいいようにさえ感じた。
「これもレベル上限が解放されたから、なのか? ……。確認してみるか。『ステータス』」
『ステータス』。そう呟いて、自分の今の状態を確認する作業に移る。
ダンジョンはモンスターが出現するなど危険な面がある一方、こうして簡単に自分の状態を可視化することができるというメリットもある。
とはいえ、これができるのは人類の半数ほどだけらしいが……。
◇
レベル:102/9999
死亡回数:1
攻撃力:420
魔法攻撃力:412
防御力:572
魔法防御力:560
ユニークスキル:『測定計測』改め『神測』
スキル:身体強化
魔法:火水風雷闇光の6属性による初級魔法、中級魔法
病気:なし
◇
「……これ、本当に俺のステータスか?」
能力値が2倍近く。それに持病の神経痛の表記が消えている。
状態のリセットというのが、持病までも消してしまったのだろうか?
それとレベルが102になっているのはどうしてだ? もしかして……日課をこなして得た経験値が反映された? だとしたら馬鹿にされながらも探索者活動を続けていたことが報われた気になれるが。
それにしも、まさか死んで良かったなんていう感想を抱くときが訪れるとは夢にも思わなかったな。
「これを知ったらまた慎二のやつが……。いや、あんなことをされたんだ、今度は俺が馬鹿にしてやってもい――」
「ガルル……」
顔を真っ赤にした慎二の顔を思い描いていると、近くの岩場からモンスターの鳴き声が聞こえてきた。
そういえば、俺が落下してきたここは何階層なのだろうか。
熱くも寒くもない、この洞窟の特徴を見るに、2階層か3階層あたりのような気はするが……。
「そうだとしても、俺の今のレベルステータスなら、問題ないはず。生死をかけて格上のモンスターに挑み続けた、あの時の、もがいてた自分とは違――」
2階層で、犬のような鳴き声のモンスターと言えばコボルト。
3階層であればダースウルフェン。
それ以外のモンスターは確認されていない。
だが岩場から顔を出し、俺の前にゆっくりと姿を現したのはそのどちらでもない。
2つの顔を持ち、口から炎を溢すこのモンスターの名前は……確かケルベロス。
ランク上位の探索者でも5割の可能性で死亡するという、5階層近辺から出現するモンスターだ。
「は、はは。殺すだけじゃなくて、とんでもないところに落っことしてくれたな、あの幼馴染」
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