199話【苺視点】出入口
「――神宮さん! こっちは倒しました! そっちは――」
「倒した。でも、ここに居た分だけだよ」
「……俺が1人。神宮さんが……1人?」
戦闘を終えた蒼社が家に土足で乗り込むと、そこにはさっきの太った男が倒れていた。
気を失って立ち上がることはできそうになさそう。
怪我の様子からして武器は使われていない……多分神宮の戦闘スタイルは素手、だと思う。
「俺が確認したのは5人。なぜか残りの3人は見当たらない。透過とかそういったスキルで逃げた……にしてはそんな気配は感じなかった」
「なら、どこかに隠れている可能性があるってことですね」
「そう。いや、話が早くて助かるよ。俺はリビングとか台所付近を探すからそっちは寝室を探してくれ」
「了解です」
蒼社と神宮の捜索が開始された。
私もこの映像を見る限り外には逃げていないと思う。
だけど、さっきの……いろんな道を探った、もう準備はある、そんな内容の言葉がどうしても引っ掛かる。
これも勘でしかないけど、隠れているんじゃなくてきっとこの場所にはいないんじゃないかな。
「駄目だ、いない」
「こっちもだ。隠れられそうなところは全部探したんだけどなぁ……。俺たちみたいなワープスキルを持ってるのか、いや……そういえば」
「なにか思い当たる節でもあるんですか?」
「まぁ、あるっちゃある。だけど……そうか、あいつらと繋がったのか。だから現行はこの人数、と……」
「神宮さん?」
「少し確認するか……。……。……。うん、やっぱりこいつが『交換』の持ち主。それで……スキルイーターからスキルを奪った、と」
「え?」
神宮は太った男にそっと触れた。
どうやらこれだけで、完璧じゃないにしろ相手の情報を読み取ったりできるみたい。
「なんで罠師と交換のスキルを持った人間がいると判明したのか、それって実は探索者協会が頑張ったから、だけじゃなくて俺がそれの痕跡を見つけたからなんだよね」
「そうなんですか? でも、それとこれに関係は――」
「場所は君たちの住処の別出入口付近」
「!? な、なんで、そんなところにそいつらが!」
「うーん、これは推測なんだけど……スキルイーターもオーガって思ってる人間がいるみたいでさ。結構オーガに対して恨みを持ってるっぽいんだよ。そんな人たちがもし犯罪者たちのダンジョンに住みやすい世界を作るなんていう計画を知れば……」
「それを利用してスキルイーター、オーガたちを襲わせようとする……。でも、それなら探索者協会で依頼を出せばいいだけじゃないですか?」
「オーガの危険性を知ってからそれを狩る依頼は山ほど出たんだよ。で、それが故に純オーガは狩り尽くされて、リスポーンは確認できなくなった。だからかな、スキルイーター=オーガって言う人は極端に減って、オーガ討伐の依頼ができなくなったんだ」
「そうだったんですか……。でもそれならスキルイーターの活動場所はダンジョン街なんだから、あとはわざわざダンジョンに出向こうとしなくても」
「スキルイーターだけじゃなくて、恨みを持った人間がオーガの中でも特殊な存在、君の奥さんが狩られていないことも知っていた場合はどうかな? もういないとされるオーガの討伐は依頼したくてもできない、スキルイーターだけの討伐もダンジョンに活動が及ばない。だったら犯罪者たちを使ってこれを殺そうとしてもおかしくはないんじゃない?」
「それは……」
「本当は俺が作った入口から乗り込みたかったんだろうけど、見つけられなかった……いや、犯罪者を使うことを考えればその場所はリスクが高すぎたのかな? とにかくその恨みを持った人間たちは別の場所に拠点を構えた、構えさせた」
「でもそうなったら正面から入る以外、その人たちがダンジョンに入る手段なんて……」
「それがその痕跡って言うのが、俺の使ってるスキルイーターでさ。つまり……ダンジョンへの入口を作るスキルって盗まれてるんだよね」
「それって……」
「だから多分この家には――」
――ぐぉぉ……。
蒼社の額から汗が垂れた。
そしてうっすらとモンスターの声が響き、2人の髪がほんの少し震えた。
「こっちだ!」
「ふ、ふふ……」
足早に移動する2人、その視線は寝室に向けられて……神宮はなぜか笑みを浮かべた。
「――あった!! まさか、棚の下に隠してたなんて……。にしても5人じゃなくて3人でも行こうとするなんて……」
「よっぽど自身があるか、焦っているか……。或いは既にさっきの2人の仕事は済んだってことなのか……。ともかく急いだほうがいいかもね、じゃないと……」
「大丈夫です。きっと……大丈夫」
自分いそう言い聞かせると蒼社は棚の下にあった階段に足を踏み入れた。そして……。
「ふふふ……あの時あいつらを見逃して成功だったな。もうなんにもしようとしないなら食わせちゃおうって思ってたけど……こいつは面白くなってきたよ」
神宮は精一杯平静を装う蒼社を見ながら私にしか聞こえないような小さな小さな声で呟いた。




