197話【苺視点】不吉な着信
私があれで、私があれ。
お父さんは蒼社でお母さんが藍。
人間とオーガ。
ダンジョン街の人間の敵とオーガの中の嫌われ者。
私は小さい時の記憶が曖昧。
これはスキルもなにも関係ない、と思う。
ただ自分が何者で、何をしたらいいのか、何も分からなくて、でも必死で……。
ある時自分と同じ人間を見つけて、それで外に出たんだけどそんな必死な私をほとんどの人間が見てみないフリ。
みんなが私の素性を知ってたわけじゃないけど、なんとなく嫌われ者の雰囲気が私にもあったのかもしれない。
こうやって考えてみると、改めてあの時助けてくれなかった、側にいてくれなかった両親に怒りがこみ上げてきそうなものだけど……これだけ愛してもらえてたって、それまで分かっちゃうと怒るなんてできない。
むしろ嬉しくて、涙が出そう。
この光景に触れたい、2人に会って話がしたい。
――ヴン。
手を伸ばそうと、身体を動かそうとぐっと力を込めようとした。
その時また映像が切り替わった。
私はちっちゃいけどとことこ歩いてる。
あれから1、2年くらい経ったのかな?
「――ほら、苺、今日はお父さんが遊んであげるからなあ」
「やっ!」
「え……」
「うふふ、あなた大分嫌われてるみたいね。苺、お母さんと遊ぼうね」
「んっ!」
「そんな……久々にかまってあげられると思ったのに」
がっくりと肩を落とす蒼社。
私はお母さんっこだったみたい。
「あなたはこの機会にゆっくり休んで。苺のことは私が面倒みておくから。最近血の匂いも少しするし」
「え……。も、もちろん殺してないぞ。人間も、モンスターだって!」
「分かってる。でもほら、ずっとスキルイーターと一緒だからちょっと匂い移りがあるのかも」
「んー……。神宮さんにサボらないようにって、スキル取得の時は常に側にいるよう言われてるからなぁ。どうしても、さぁ」
「……。あの人が……。他に何か言ってたりは?」
「やっぱり殺さない分、スキルイーターの情報がダンジョン街で噂になってるみたいで……事後処理はきちんとしろ、ってさ」
「そう」
「大丈夫大丈夫!別に怒ってたわけじゃないから」
「ならいいけど……」
和やかな雰囲気が神宮の名前1つでガラッと変わった。
藍は何年経っても神宮のことを気にしているみたい。
そういえば藍のスキルに神宮は興味を持っていたけど、それ以来会ってないのかな?
そもそもそのスキルには何も変化がないのかな?
――ぷるるる。
重たい空気の中、蒼社の持っていた携帯が鳴った。
それにしても携帯の形、今とは大分違うのが違和感。
「噂をすればってやつだ。きっと、前々から話してたあいつらのことご分かったのかもしれない。ごめん、ちょっと行ってくる」
「気を付けて。何かあったらすぐに戻ってきて」
「分かった気を付ける。でもここに戻ってくると苺や藍が――」
「いいから。お願い」
「……了解。じゃあ夜には戻れると思うから」
「パッ……パ」
「苺も、お母さん困らさないように静かに待ってるんだぞ」
「んっ!」
「行ってらっしゃい、あなた」
「うん、行ってきます」
不穏ななにかを感じとる藍と何も分かってなさそうに頷く幼い私。
きっとこれからなんだ……私が1人になった原因が起きるのは。




