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194話【苺視点】好きな味

「スキルを使ってるったって……こんなにはっきり聞こえるなんて、スキルイーターですら無理だったのに。おい、その腕だけあれば十分スキルを取り込める。あんなのは放って置くことにして……こっちを調べるぞ」



 驚いたのは私だけじゃなくて蒼社も一緒だったみたい。


 それにしても、今のオーガの声がスキルによるものだとして、私たちにもその感覚まで伝わっているってこと?


 ……風竜凄すぎ。



「……オ、オーガの新種、に、逃げ、逃げないと……」

「あ、治療しないと、死んじゃう」

「下手に絡めば余計に狙われる。治療なんてすれば、『回復スキルを持った貴重なオーガの捕獲』なんて依頼が出されるかもな」

「でも、それでも私は……『振動:止血』」




 ――ぐがああああああああああああああああああああああ!!!




「ひ、ひい!!」



 か細い喋り声からは想像もできないような雄叫びをダンジョン内に響かせる青色のメスオーガ。


 それに驚いたのか、探索者たちは今までの牛歩が嘘だったかのように走り出し、あっという間にここから去っていった。



 腕をもぎ取られたはずなのに、血もあんまり溢さなかった。

 似てるけど、私の振動スキルと全然違う。あんなの私にはできない。



「逃げた、か。俺に気付かなかったっぽいのは良かったけど……。面倒ごとになっても知らないよ」

「またやって来るなら、その時は分かってもらえるようにもっと言葉を覚えないと」

「……。人間と敵対したくないモンスターねえ。でも、人間はそう簡単じゃないんだよ」

「あなたも、ですか?」

「むしろ俺の方がひねくれてるし、多分悪だよ。そのスキルもあんた自身もレアすぎて自分のもんにしたいとさえ思ってる」

「……そうですか。ということは私、殺されるんですね。でも……ふふ」



 青いメスオーガは笑った。

 媚も恐怖も全く感じられない。本当に、楽しそう。


 蒼社もその表情が気になったのか、ぼうっと見つめてしまっている。



「あの……殺さないんですか?」

「怖くはないのか?俺が、人間が」

「……。初めて話ができて、なんで自分を襲うのか、虐めるのか。全部納得させてくれて……。本当はみんな仲良くできたらって思ってたけど……でも、こうして気持ちを伝えられて、受け取れて、それだけで満足でした」



 初めて話ができて……。

 身体の痣とか仲間から見捨てられたりとか……この青いメスオーガは同じ種族とも会話ができなかった、それだけ稀有な個体だったらしい。



「満足か……」

「はい。多分私はこの時のために生まれてきたのだと思います」

「……。勝手に満足して、気持ちよく死のうとするとか……。俺はそんなことさせてやらない」

「え?」



 子供みたいに不服そうな顔を見せた蒼社。

 思いがけない言葉や態度だったのか、青色のメスオーガはすっとんきょうな声をあげて首を傾けた。



「俺の趣味はモンスターの図鑑とかを眺めたりすること。だから珍しいモンスターには興味津々。それと、スキル。レアなスキルを集めたりすることは仕事でもある」

「は、はぁ……」

「だからお前は俺を満足させるために、俺と暮らし、そのスキルをもっともっと特異なものにしてもらう」

「え、えっとぉ……」

「お前は俺に殺されることを受け入れた。つまり、その命は俺に預けられたってこと。だから拒否権はない。スキルイーター!そのモンスターを運んでくれ!一旦帰――」



 ――ぐぅう。



 蒼社の命令でスキルイーターが青色のメスオーガを担ぎ上げようとすると、盛大にお腹の音がなった。


 これは……青色のメスオーガかな?



「えへへ。なんか、安心したらお腹が……。そういえばしばらく草ばっかりで」

「人間を食わないからか……。んー、手元にあるのはこれくらいか。これじゃ腹の足しにはならないだろうけど、一旦我慢してくれ」

「これは?」

「包みを剥がして口の中で転がしてみ」



 蒼社はポケットから飴玉を取り出して手渡した。


 あれ、私も好きな味のやつ。



「綺麗な赤色……。……。……。んぅ! 木苺の味!? 甘っ!!」

「大袈裟大袈裟。こんなの帰ったら――」

「『赤』が……こんなに好きだったことないです!」

「……そうかい。そりゃ、よかったな。んじゃ舌噛まないよう気を付けてな。スキルイーター、頼む」



 嬉しそうな青色のメスオーガの顔とその青い身体を見ると、蒼社は嬉しそうな、苦しそうな、何とも言えない表情でスキルイーターにそれを運ぶよう促したのだった。

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