191話【苺視点】環境順応
「――おお!! スライムにコボルト!! 王道のモンスターは勿論ゴーストフラワーとか、にっちなやつまでいるじゃないですか!! いやぁ、確認済みのダンジョンの中でも回収資源のレア度が低いとか言われてたけど、こうしてみるとただ探索が足りないだけっぽいですね」
「まだ探索者の質もそこまで高くなくってさぁ。ま、ここは人間の多さ……政府の介入が少ないから仕方ないんだけど」
「そういう風にしている張本人なに言ってるんですか。……とにかくです! これだけ面白いところであれば俺も退屈しないで済みますよ!」
「それは良かった良かった。でも、本業の方もおろそかにしないでね」
「あ……。だ、大丈夫ですよ! 仕事はちゃんとしますから」
「……。まぁサボったりしたらすぐに分かるからサボるなんて無理だろうけどね。で、スキルイーターはこっちに隠してて……」
「……。相変わらず、面白みがない見た目ですね、こいつら」
ダンジョンに移動した蒼社たちはおそらく1階層であろうそこを少し歩くと、スキルイーターの隠し場所に到着。
会長室と同じようにその入口は隠されていたようで、神宮が壁に触れるとそれはまるで生きているみたいに動き、道を作った。
私たちに秘密の場所が強力な誤解スキル、会長の力によって他にも作られている……そんな可能性もまだまだありそう。
まさか、ダンジョンの1階層にこんな高級な住宅とか、モンスターを格納する小屋というか研究所があるなんて……びっくりだけじゃなくてちょっとワクワクもする。
「でもどれも性能のいい個体で、俺たちの言うことも分かるようにしてるから」
「へぇ、そんな高性能な個体を貸し出してくれるなんて太っ腹ですね」
「それはここの人間が結構いいスキルを持ってるから、ってものあるかも。なんかわからないけど、下位の人間たちの質がいいんだよ」
「まったく、どこから連れて来られた奴隷……じゃなくて人間なんですかね」
「その辺は考えすぎないといい。政府って本当にドロドロだから」
「俺たちもその一部ではあるんですけどね。現にこんなことやってるのって相当あれですもん」
「あはは、その感覚がある分君は大分マシなんだろうね。さて、必要なものは全部ここに運んであるはずだけど、足りないようなら連絡、あとこっちでいいスキルを見つけたらそれも連絡するから」
「了解です。でもダンジョン街にスキルイーターを連れ出すとバレそうですね」
「明日までには気付かれないよう、新しい出入口を作っておくさ。それじゃあ、お仕事頑張ってね。頑張った分だけお給料もアップアップだから」
「了解です」
ひとしきり説明をすると神宮はダンジョンを後にした。
これを邪魔する人が現れたりしないのは気付かなかった、ってだけじゃなくて、風竜がこれを見過ごすしていたから。
とはいえ安寧のためだからって……知らんぷりは辛かったんじゃないかな?
だって風竜、凄い優しいって思ったもん。
「――と、じゃあ今日は探索者を観察しつつ……モンスターの観察にでも行きますか! あ、君らは一先ず出入口ができるまで待機。そんで俺は竜にばれないよう一応スキルを使って……『環境順応』」
想像以上の環境にテンションが高まったのか、蒼社はスキルイーターに高めのトーンで命令をするとスキルを発動。
黒かったその目を青く輝かせるとモンスターのいる区画に戻っていった。
そして……。
「――ぐ、ぐぐがっ!!」
「お、それがここのコボルトの挨拶か。ふむふむ、メモメモ。……ふーん、毛色も若干違うっぽいな。ちょっと触っていい?」
「ぐ……。おお……」
「いいっぽい? いやぁごめん、このスキル微妙に使い勝手悪くてさ……全部が全部理解できるってわけじゃないんだわ。だからオッケーなら尻尾こっちに向けてもらってもいいかい?」
「お、お……」
遭遇したコボルトと不完全ではあるけど言葉や意思を交わしたのだった。




