19話 盟約
「く、う……。この疲労感……長時間戦闘のせいだけじゃなかったみたいだな」
十二重斬まで強化されたことで、超身体強化と同じくその分身体に負担がかかるようになっていたことにここでようやく気付いた。
というのも、それに気付けるくらい今の戦闘状況が俺に有利に傾いていて、少し余裕が生まれたから。
俺の血の混じった水を浴びたオロチ本体と竜たちは、全員顔を赤くしてしかも千鳥足。
中にはその場で倒れこんで寝てしまいそうなものもいる。
取りあえずは攻撃をするどころではないだろうし、1度で全員を殺すために、ある程度オロチ本体にダメージを与えないと……。
「う、ぁぁ、く、くりゅなあ。い、今は……ダメりゃあ!」
地面に落ちた血を舐める竜たちとは違い、オロチ本体は息を荒げて必死で、アルコールに支配されたその身体に抵抗していた。
だが既に、口は回っておらず、今にでも地面に這いつくばって血を舐め始めそうなくらい体勢が低い。
綺麗な女性の見た目と相まって攻撃するのは躊躇われるが、アルコールの効果がいつ切れるのか分からない状況 の中うだうだしていては、自分をただただ危険に追い込むだけ。
身体は既に限界。
スキルを使う余力は最後まで残しておく必要があるから……直接攻撃に出るしかない。
「はぁはぁはぁ……。お互い、みっともない様だな。だが、それもそのうち終わる」
「や、やめ……」
決して速くはない俺の剣撃をオロチ本体は避けようとしたが、それがかえって裏目に出て転倒。
その隙を見逃さず、俺はオロチ本体の首や胴体に剣を突き刺して、あわや死ぬか死なないか、そんな ギリギリの状態までひたすらにダメージを与える。
痛みからくる絶叫。
そろそろ止めを刺してやってもいい頃合いか。
「ドゥ――」
「ま、まっひぇ! な、なんでも言うことを聞く!もうあなひゃには、手をだひゃない。だから、だから殺すのだけは……。私、これ、ききたかっただけひゃの」
「残念だが、モンスターの言うことをそう簡単に信じてやれるほど、俺は理解が良くないんだ。十二重斬」
「な、縄張り解除! この身は全ひぇあなたひゃのもの。ここに盟約を結ぶ。今ひょり私はあなたの奴隷……」
たどたどしく言葉を紡いだオロチ本体。
その唇が俺の唇に触れる。
すると、途端にオロチ本体のステータスや日頃の暮らしっぷりが頭に流込み、それと同時にオロチ本体を殺してはいけないという言葉が心の中で反芻される。
だが……
「ご主人様、これひぇ、信じて――」
「理解はした。だがすまん、もう止められない」
俺は既に発動し、振り下ろし始めたその剣を止めることはできなかった。
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