188話【苺視点】知りたい
「……んんぅ」
いきなり頭の中でみやに似た人たちの映像が流れた。
すごく激しくて、辛くて……ちょっと頭が痛くなった。
障壁の向こうにいるモンスター、その1匹がどうしても気になってここに来たはいいけど……今日はもう帰って寝たほうがいいのかも。
「どうしたの、苺ちゃん。こんなところで会うなんて奇遇じゃないか」
頭を押さえながら振り替えるとみやがいた。
みやはいつも、あのときも、唐突に現れがち。
「みや……。ちゃん付けしてる時、なんか嘘っぽい」
「……ありゃりゃ。バレバレ?」
「うん。やっぱり、今の映像気になる?宮平ってみやの家族?」
「いんや。一族の人間で……昔ちょっと聞いたことがあるって感じかな。すごく優秀で、ちょっと変わった人のお陰で俺たちはここでいい暮らしができてるんだっ、て」
「……ふうん」
「いわばヒーローみたいな人で、なんだかんだいい人だなって思った。ただこんな風になった原因の1人で……その罪は重いと思う。……そんでもって会長にいいように使われてたのが自分とダブった」
「……みやだって悪くないよ」
「……苺は優しいね。いつもはツンツンって感じなのに」
「ツンツンは余計。……でも、良かった」
暗かったみやの顔がちょっとだけ明るくなった気がした。
今の冗談は、無理な感じじゃなかった。
「にしてもこのモンスターたち昨日より増えてない?」
「うん。2匹くらい増えた」
「やれやれ……。ちょっとでもなんとかできないかなって思って来たのにさぁ、これじゃあやる気半減だよ」
「なんとかって……障壁は私でも壊せなかった。多分みやにも無理」
「障壁を壊すのはね。でも、モンスターに干渉するのはできるかもってさ。ほら、さっきの映像でもモンスターの持つスキルを『誤解 』で操ってたし」
「確かに……試すのはありかも。なら……あれ。あの1匹にこっち来るようにできない?」
「……なるほど。苺はそれが気になってここに来たのか。そういえば昨日もなんか障壁の中ずっと見てたっけ」
「うん。できる?」
「やってみる。一応なんかあった時ようで戦闘準備はしておいて」
「分かった」
みやが障壁に手を当てる。
それに合わせて私は斧を取り出して構える。
私があれを気になったのは理由は視線。
あいつだけ私に対して殺意みたいなものを感じない。
すごく柔らかくて、みやが私を見ているときにもちょっと似てて、嫌じゃなかった。
自分にモンスターと人間の血があるって知ったからかな?
それとも、あいつは私を知っているのかな?
私は自分を知らない。
お母さんの手が温かった、そんな気はするけど……。
ちゃんと自分が自分だって、気がついたとき周りには誰もいなかった。
ちゃんと人と話しができたのはみやと会ってからで、それまでは……。
知りたい。
もしあのモンスターが私を知っているなら。
なんで私は一人ぼっちで、あんな思いをすることになったのか……知りたい。
「――あ、ああ……」
「う、ぐ……。障壁はスキルの効果も薄めるみたいだね……。ほんのちょっと……大した誤解をさせようってわけじゃないのに……。全身から力が……」
「みや……。ごめん、無理はしないで――」
「苺の、こんな優しい妹分の……たまの頼みくらい、叶えてあげたいん、だよね。今日の俺、は!!」
「――あ……ああああっ!!」
汗だくのみやはさらにその手に力を込めた。
すると、苦しそうな声をあげていたモンスターは何か解き放たれたような声に切り替わり走り出した。
そして……。
「イ、チ……ゴ……?」
「え?」
モンスターは障壁の際まで迫ると、私の頭を見ながらカタコトで呟いた。




