187話 いつもの二人
「――大分買い込んじゃったな」
久々に1人で出掛けるということもあってか、こんな時だってのに俺は買い物を満喫。
両手に提げた袋の中には少し凝った料理でも作ろうと思って様々なスパイスや少しいい肉、普段買わないようなマイナーな野菜がずっしり。
他に折角時間があるから久々に編み物でもしようかと思って色々買い込んだ。
なんかこう、料理とか編み物とか、手先を使うようなことってそれだけに没頭できるからついついハマりがちなんだよな。
それにこれからの1か月、それ以降も多分資源の無駄使いはできない。
寒い時期なんかになれば今までよりも暖房は効かせられないだろうから防寒でマフラーやなんかを編むのも悪くはない。
「色んなものが手に入れにくくなる……」
立ち寄ったスーパーでは早速米やカップ麺、水、トイレットペーパー……いざという時に備えてそういったものをごっそり買っている人が多くいた。
もし会長たちを退けることができたとして、地上とそういった物の取引をすることは可能なのだろうか?
この街を支配していた会長と神宮、この2人と繋がっている人間たち……殺すのではなくて、取り込むための作戦を練る必要がある、か。
「考えただけで頭がいたいな」
少しだけ上を向いて空を見上げる。
こんなに広く青く見えるのに、この空は偽物で、この風だって……もしかしたら自然のそれとは違うのかも――
「って、今日は特別風が強くないか?」
『――私の意識がなくなるその前に、この記憶を愛する娘と夫の一族……地上に仇なそうとする人たち、竜たちへ……』
前髪が風でなびくと頭の中でか細い声が響いた。
そして俺の頭の中に若き日の会長と風竜、なぜか今とほとんど変わらない神宮、幼い頃の京極さん、他にも色んな人やモンスター、そして……ダンジョン街がこうなったことの顛末が映像として流れ込んだ。
「……」
裏切りと嘘、風竜の想いと旦那さんの最後……情報の多さと衝撃に俺はしばらく黙った。
そしてようやく落ち着くことができたころには、会長や風竜に対しての想いを募らせるよりも先に、その人たちへの心配が頭をよぎった。
そんな時……。
「――あ……宮平さん」
俺は視線の先でいつもよりも少しだけ暗く、深めに帽子をかぶった宮平さんの姿を見つけた。
今の映像は宮平さんも見たはず。
であれば何かしら動揺する様子があってもおかしくはないのだが……。
「……」
「なにもなし……か」
止まる様子などなく、淡々とどこかへ歩いて行く宮平さん。
俺はそんな普通そうに見える宮平さんがむしろ心配になり後をつける。
京極さんのことも心配ではあるけど……なにをしでかすか分からないといった意味でも今は宮平さんのほうが最優先かな。
それにこっちの方角って……。
「――やっぱり。宮平さん……こんなところで一体なにを……」
後をつけていった先にあったのはあの障壁。
もう人だかりはなく、いるのは宮平さんと障壁の向こうのモンスターたち、それに……。
「あれは苺?」
俺はいつもの2人のいつもと違う雰囲気になんとなく気まずく思い、悪趣味なことは分かっていたものの、ひっそりと影からその様子を眺めることにしたのだった。




