186話 不安なまま
「――ダンジョンの資源、特に食べ物や魔石の確保と地上から輸入した物品、石油やガス、これらがどれくらい持つのかもう一回計算して……依頼の数は当然増やさないと出し、街が戦場になることは間違いないから一般の人たちにはダンジョン内に作った居住スペースを……。となるとその辺りのモンスターの討伐と車が通れるよう道路を……。企業側がすぐ仕事に入れるよう期間は短めじゃないとまずいから1週間……いや、3階層くらいならまず5日で……」
「お、お疲れ様です京極さん」
「彩佳……大丈夫?」
「遥さん、ハチさん……。大丈夫です!とりあえずこの依頼をまとめて送っちゃえばあとは他の職員が依頼の受領確認をしてくれるので。みんなに気を遣わせてしまうのは申し訳ないですけど、地上の人たちが攻めてくるその日に備えて明日からはしっかり休ませてもらうつもりです」
慎二や赤と戦い、ダンジョン街を脱獄犯や影が襲い、会長が裏切り、ここで暮らす人たちの記憶が戻り……色々なことが起きすぎた1日がようやく終わり、一先ずここで暮らす人たち全員が不安な気持ちを持ちつつも眠りにつくことができた。
そして翌日からは地上との交易が途絶えたことと、これからの対策で探索者協会や企業が稼働。
上位も下位もなく、その日のために誰もが協力を惜しまずに働いていた。
当然俺とハチもすぐに依頼を受け、一先ず電力となる発電の魔石を集めてきた、というところだ。
「そうでしたか。じゃあこれも他の人にお任せさせてもらいます。風竜、お母さんのことは心配だと思いますけど、ゆっくりと休んでください」
「リンドヴルムには私のほうでも連絡してみるわね」
「ありがとうございます」
そんなこんなで京極さんを訪ねたのだけど、ぐっすりと眠れていないのか、目元には隈が。
明らかに仕事に追われている様子であのハチでさえも気を遣う始末。
ちなみにハチはあれからずっと寝ていたからか元気すぎるくらいで、反対に陽葵さんは今も家でゆっくりしている。
宮平さんは苺、慎二や脱獄犯のリーダーはとりあえず浦壁さんが連れていったが、今日はまだ見ていない。
全員陽葵さんと同じでぐったりしているのだろう。
「それじゃあ俺たちはこれで」
「はい。ではまたあとで!」
そうして俺とハチは違う受付に移動。
依頼の魔石を渡すことにしたのだが……。
「――あとで、ってどういうことだ?ハチ、なにか知ってるか?」
「ふんふんふーん!お高いお肉にお魚、お酒もいっぱい用意して……。あっ、遥様! 私用事があるから! じゃね! 大丈夫! 浮気はしないから!」
「浮気ってなぁ……」
「勿論主従関係的な意味だけど……陽葵がいいって言うならそっちも大歓迎だから!だってね、改めて遥様って最高のご主人様って分かっちゃったから!」
「あのな、そういうのはあんまりこういうところでは……」
周りの注目を一斉に集めるハチ。
本人にそんな気はなくても端から見たら公開告白みたいなもんだそ、これ。
「あはは! 遥様真っ赤っか! 赤くなるのは飲んでからじゃないとよ! じゃあまたあとでね遥様! すぐに帰るんじゃなくてもう少しぶらぶらしてきていいから」
「あ、ああ。あんまりお金使いすぎるなよ」
ハチにまであとで、と言われた俺は受付の人たちにくすくすと笑われながら魔石を渡して依頼達成の報告を済ませると、そそくさと探索者協会をあとにして久々に1人街を歩くのだった。




