180話 鳥籠
「――みなさんお疲れ様です!会長は?お母さんは?地上の人たちの動向は?」
あれから数分して会長室でハチ、赤、陽葵さんと合流。
俺たちは報告のために1階の京極さんたちがいる、探索者協会の受付まで移動していた。
すると記憶が戻り、自分たちの置かれた状況をも思い出したようで京極さんを含め、職員も皆心配した表情で俺たちを出迎えてくれた。
とりわけ京極さんは風竜のことがあるのだろう、いつもの冷静な様子はなく、俺たちを質問責めにする。
「すいません。会長と風竜はどこかに消えてしまいました。ただ地上の人間による洗脳、また記憶が書き換えられることは当分ないないです。苺がその原因であるモンスターを処理してくれましたから」
「うん。私、あれ殺した。でも遥が無効化できるスキル持ってるからいても大丈夫だったかも」
「そう、ですか……」
俺たちの報告に京極さんは肩を落とし、職員の人たちはとりあえず安心した表情を見せた。
といっても最初の問題である影スキルと脱獄犯についてはまだ解決に至っていないはず。
ここ以外にも危険な場所を確認しに行かないと――
「――地上の奴らが俺たちをまた奴隷にしようと動き始めてるってことだろ?ならその出入り口は当然地上の人間による警備が頑丈になる……。はぁ、地上を目指していった奴らはなんのために脱獄したんだか……。あいつら今頃自棄になって元地上の上位さんたちでも殺しに行ってるかもな」
拘束されていた脱獄犯が何気なく、気の抜けた喋り口調で話しかけてきた。
その言葉に京極さんは途端に表情を切り替え、俺たちを見た。
どうやら京極さんは生粋の仕事人、会長のことがあったとはいえ探索者協会の職員として探索者を派遣しなければならないという責任は損なわれていないようだ。
「皆さん、危険は重々承知ですが記憶が戻ったことによる街の変化、地上への出入り口の調査を依頼させてください」
「神宮は障壁を張るとも言っていました。なのでちょうどその確認もしたかったんです。是非その依頼受けさせてください」
「ありがとうございます! ……お母さんのこと、心配ですが……まずは私も全力でサポートします! 他の探索者にも協力の連絡をしますので必要であれば脱獄犯の拘束時、この人たちに指示をお願いします!」
いつもより力の入る京極さん。
その熱を感じとって俺だけでなく、その場にいた探索者たちや職員たちの顔に笑みが浮かんだ。
「助かります! それじゃあいくぞ、ハチ!」
「くたくただけど……報酬がっぽりの予感!よし!もう一踏ん張りするわ!」
「陽葵さんは……もう大丈夫ですか?」
「もちろん。それに……苺ちゃんが倒したモンスターのことを考えればへばってなんかいられない。赤君も準備はいい?」
「ご要望であればいつでもかっ飛ばせます」
「私も、いく」
「俺も……多分街の混乱を収めるのに役立てるはずさ」
ハチ、陽葵さん、苺、宮平さんのいつものパーティーに赤を加えた5人で顔を見合わせると俺たちは急ぎ足で外を出た。
すると……。
「お前ら……。見ろよ。俺たちは完全に籠の中の鳥、らしいぞ」
影を拘束し終わったのか、その場にしゃがみこんでいた慎二は俺たちに気付くと、不穏な言葉を漏らしながらある一点を見ろと、顎をくいっと動かしてその先を示したのだった。




