176話【苺視点】2週目?
「撫でるようにさっと命を吹き、削る風。ふぅ、私のレベルだとこの部屋全体が限界ですか。でも、十分ですね。邪魔なあなたたちは……確実に殺せる!!」
会長が凄むと、纏わりついていた黒い風は解けた。
そして魔法陣からは竜の姿を模した風が出現。
竜を模した風は黒い風を咥えて旋回、それが通った場所には強く風が吹き荒れる。
そこに加えていた黒い風をそっと落とすと、四散。
とんでもない速さで部屋全体がそれに飲まれた。
「――あ、あああああああああああああああああああああ!!!」
これを避けることはできずに受け入れ。
風が優しいと感じたのはほんの一瞬。
一秒もしないうちに全身が張り裂けそうに痛み、今度は縮んだ。
喉が渇く、信じられないほど干乾びる。
みやも風竜もその手を伸ばすけど、それをとることはできない。
動けない。動きたくない。
「あはははは! これはいい! 簡単に死なれるだけではつまらないですからね! あなたたちの苦しむ様子ほど楽しいものはないですよ! さて、モンスターだけ回収して改めて洗脳を街全体に――」
――ぼっ。
涙さえも出なくなって死を覚悟した。
その時だった。
黒い風に突然火が付いた。
黒い風はその日に飲まれて消え、私の身体には雫が一滴。
額に落ちたそれはゆっくりと伝い口の中へ。
たった一滴の水でしかないのに、潤う、生き返る。
こんなにも水が美味しく感じたことなんて今までなかった。
「助かった……。でも、なんで?」
――パリン。
「――多重乗斬・隠」
突然ガラス窓が細かく……切断された。
見えない斬撃。
それはガラス窓だけじゃなく、会長の魔法陣や竜に模した風をも切り裂いた。
「……京極さんの指示があってよかった。でもまさかこれ全部を会長が……いくら『洗脳』がなくなったからとはいえ、宮平さんたちを簡単に殺そうとするとは思いませんでしたよ」
「……。これはこれはまた厄介なお客さんだ。しかも、私のしたこと、しようとしたこと、その多くをお分かりのようで。……それも君のスキルによるものかい?」
連続の切断攻撃とあり得ない侵入方法。そして、この声。
飛行スキルなんてもっていなかったはずだけど、この人ならそれができてしまうのも不思議じゃない。
だって、この人並木遥は……このダンジョン街で最もレベルの高い、唯一100レベルを超えた探索者だから。
「だったらどうだっていうんですか?」
「君のスキルは非常にレアだ。大人しく献上してくれませんか? でなければ……危険分子としてあなたも殺さないといけない」
「それは無理ですよ」
「……。構造理解。……。ふふ、並木遥君。君のレベル……『2』って、何があったのか知りませんがそれでよくそんな強気でいられますね。その程度じゃ私の誤解スキルや洗脳スキルは防げませんよ! 勿体ないですが一度洗脳してから全員殺すことにしましょう、かっ!!」
会長は手の平を並木遥に向けた。
しかもまた風が吹いた。
近くまで歩いてきたモンスターが飛ばされそうになるほど強く。
これ、多分強力な支配効果を付与しようとしてる……?
「駄目! 逃げて! じゃないと――」
「大丈夫。俺には、苺たちにも効かない。効かせない」
風が吹く中、堂々と歩いて会長に近づく並木遥。
その姿はここに居る誰よりも大きく見えて、安心してしまう。
「な!? そんな馬鹿な!!」
「抵抗力付与、抵抗力強化。会長が扱うレベルのスキルならこれが有効。それに俺自身への効果も、これだけレベル依存な部分があるから問題ないみたいです」
「レベル差、だと? なぜだ、君のレベルは2と……構造理解ではそうなって――」
「それは『2週目』のレベル2です。しかもその上限は……9999、だと思います」




