175話【苺視点】足掻き
「――苺、すごい……なんだか頭良さそうに見えるぞ!その戦いかた!」
「みや、それ誉めてるの? ……動きは、追える。ただ……やりにくい。なんか、会長の戦い方……」
急に、しかも大袈裟に声を出すみや。
いつもよりずっとテンションが高く見える。
会長はそれを鬱陶しそうに思ったのか、少しだけ眉間に皺が寄った気がした。
だからって戦いが雑になるわけじゃないのが会長らしい。
武器スキルを利用しているのか、突き刺しと振り下ろしの択を巧みに使いこなすナイフ捌きが絶妙で丁寧。
ナイフっていう武器にしては基本をしっかり押さえていて上品なんだけど、足払いとかボデイブローとか膝蹴りとか……普通の喧嘩みたいな攻撃を隙のあるなしに関わらず織り混ぜてくる。
反撃されるのが怖くないのか、そもそもそういった喧嘩上等なスタイル、殴り合いが好きなのか……とにかく、知能のあるモンスターと戦っているみたいで、まったく先が読めない。
「それでも……だんだん掴めてきた」
斧を振り回しながら、スキルを発動するふりをしてエルボー。
空振ったと見せかけて蹴り上げ。
攻撃に緩急をつけること、相手を翻弄させられる選択を私は会長から学ぶ。
頭がびっくりするくらい回っているのが分かって、なにを仕掛けたいのか、どう防御すればいいのか、そんな迷いも減っているのは頭の使い方も会長から学べているから、だと思う。
だって青にもやはこれ以上濃くならない、広がらない。
きっと学びの限界をこれが教えてくれている、そんな気がするから。
もやは青いけど私を包み込むようにしてくれていて、温かい。
気付けば暗い感情は薄れていて、全部この青いもやが拭ってくれたように感じる。
「いやはや、想像以上ですよ。私も少しだけ楽しいと思ってしまいました」
「余裕ぶってるの、嫌い。奥の手でもあるの?」
「ありますよ、しかも……それは増えた。悪くない考えではありましたが、なんだかんだ君と私の付き合いは長い。気を逸らせるためにわざとらしく演技、私は無理と判断してリンドヴルムを無効化……そこにいないと誤解させようとしましたね。それに自分まで誤解させているなんて……やっぱり油断なりませんね、君は」
会長が視線を私よりも奥に向けた。
釣られて私もみやを見る。
すると、さっきまでテンション高めに見えていたみやが顔を真っ青にして口元の血を拭っていた。
しかもその後ろにはいつの間にか風竜が倒れていて……状況は最悪に見えた。
「あーららぁ。折角苺が時間作ってくれてたのに……駄目だったか」
「すみ、ません。さっきの一撃が効いていたみたいで……」
「いいや。俺がこの程度でひいひいしてたのが悪い。で、どうなの風竜さん。あれの強さは」
「契約は逆転。しかも完全に風竜の力を……私でも扱いきれなかった力を得た。今の矢沢はきっと容赦してくれないでしょう。あの目は力を試したい、そう言ってるように私には映ります」
「そっかぁ。なら……苺! お前だけでも逃げ――」
「――『死風』」
みやが口から血を溢しながら大声をした瞬間、会長の身体を黒い風が包んだ。
そしてふわりと浮かんだ会長は、私の攻撃を簡単に弾くと部屋全体に今まで見たどれよりも複雑に描かれた魔法陣を複数展開した。




