174話【苺視点】青
はっきりと認識した途端新しいアナウンスが流れた。
自分は人じゃないって言われてるのに、それがすごくしっくりくる。
頭の重さは違和感程度になって、痛みもやや痒いくらい。
しかもこれって会長のスキルがどうのこうのじゃなくて、多分この身体、角のある感覚に慣れてないだけ……そんな感じ。
「――さて、こっちはこのままでいいとして、宮平君のスキル……これが彼みたいに扱われると厄介。洗脳してしまうよりも一族を皆殺しにした方が良いかもしれませんね。まあ私が何かしなくても反逆者の一族という情報があれば上からの制裁は免れないと思いますが。……ん? そういえば神宮さんはこのことを報告しなかったのか?いや、あの人は変わり者ですから別に気にする必要はない、か」
私が変化を確かめていると、会長はみやを見て一歩。
まるでワープスキルかと疑いたくなるばかりの速さで近寄った会長はみやに掌を翳す。
「はは……。俺、今まで会長さんのために色々働いてきたんだけど……手加減してもらっちゃ駄目ですか?」
「探索者のスキル情報を収集、レアスキル、或いはそれに至れる可能性のあるスキルをあのモンスターが集めていたようで……確かに宮平君、あなたは地上の人間たちや私にとって大変よく働いてくれていたんだと思います」
「それじゃ、温情をかけてもらえますよね?」
「でもですね、私は自分の意思でこれをしようとしていたわけではないんですよ。記憶が帰ってきて……どうやらダンジョン街で犯罪が蔓延らないため、危険なスキルへの対策のため、なんていうそれっぽい理由付けでそれをさせられていたことに気づいたわけです。そうでなければ……誰が忌々しい宮平一族の人間、あんな反逆者と同じ血が流れる人間なんかと仲良くするものですか」
声に怒りが表れると、会長の目の前に魔法陣が展開された。
みやはここに入るとき無理にスキルを使ったみたいで動けそうにない。
急がないとみやが殺される。
そんなの嫌。
お母さんもお父さんもいなくて、ずっとひとりでなにも知らなくて分からなくて助けてくれなくて……あの時、みやが話しかけてくれるまでは。
みやが、家族が殺されたら私は……。
『――亜人種:鬼……希少種であることを確認。希少種:青の特性が顕現。学び力が増大。対象からその速度を学びました』
泣きそうな気持ちで溢れそうになると、またアナウンス。
勝手にさっきの会長の動きが頭の中で反復された。
そして私はみやを助けたくて、無理かもしれないけどそれと同じ動きで足を一歩前に。
「――なに!?」
「い、ちご?」
「で、できちゃった……。会長。みや、いじめるなら……私が許さない」
びっくりする会長の顔とびっくりする声のみや。
私も会長と同じ動き、その速さになれたみたい。
レベル差はある。でもその分、その差があるから……学べるものも多い。
「会長。この目で全部全部学ばせてもらう。それで……いずれ、ううん。今日中に私が勝つ。だって会長はおじさん、私はきゃぴきゃぴ。伸び代も十分」
「確かにそろそろ疲れやすい年齢かなと思いますが……人間には年の功という言葉があってですね、私はもう何十年と――」
「長話。チャンス」
「……。これだから若い人間、いや、モンスターは……。ま、いいでしょう。私も地上の連中に干渉されるより早く洗脳をかけ直しを始めたいと思ってましたから」
会長が動く。
私はそれを目で追い、観察。
そうして集中すればするほど理解が深まり、なぜか私の視界には青いもやがかかった。




