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171話【風竜過去】神宮

「あなたは……」

「初めまして。神宮といいます。もう会うことはないかもしれないから紹介は程々にさせてもらおうかなって感じなんだけど……俺もここを任された一人でね、矢沢さんや宮平さんとは違って興味本位で見に来た、ちょっとだけ偉い人間さ」



 10代位の若い男生。

 唐突に現れたその人間は誰よりも軽い口調で、楽しそうに私を見つめてきた。


 矢沢のような不気味さはない。殺意も感じない。


 感じるのは無邪気さだけで、これが本当に偉い人間なのかと、私の頭の中では疑問が湧きがった。



「地上の、上位の人間……」

「そう。でもお偉いさん、父さんや爺ちゃんと比べると責任感って言うのかな、そういうのがなくて……矢沢さんたちがいろいろ動いてたのは知ってたんだけど、はたから見てる方が楽しくて……ずうっとダンマリ決め込んでたってわけ」

「……そう。それで、そんなあなたがなんで姿を? 流石にこの状況はまずいと思ったのかしら?」

「うーん……。良くはないけど、とりあえず反逆者は判明して、捉えることもできたわけで……ここはもうダンジョンの資源がとれればそれでいいやって感じかな。だから地上に攻め入るだとか、無駄に下位の人間をイジメて反逆者を生ませたり、なんか面倒が起こるくらいなら、あんたの記憶の改竄? それって俺にとってもすごくいい判断だったなって」

「だからわざわざ褒めにきてくれた……ってこと? 律儀な物ね」

「それだけじゃないさ。さっきも言ったけど、洗脳は完璧じゃない。だから、ダンジョン街の運営に支障が出ないよう色々と提案をさせにもらい来たってわけ。というわけでちょっと疲れたからここ失礼させてもらうよ」



 神宮はその場に腰を下ろして、ふうっと息を吐いた。


 すると神宮の顔はさっきまでとは別の人間かと思うほど真剣なものに変わった。

 そしてその場の空気に歯ただならぬ緊張感がただよい、その場にいた誰もがが動きを止めた。



「続けざまに話をさせてもらうけど、まずこれもさっき言ったがあんたにはその姿を隠してもらいたい。もちろん監視はしてもらっても構わないけど、あまり干渉されると洗脳が解けるかもしれないからね。俺たちが開発している洗脳スキルが完成すればどうにかなるかもしれないけど」

「開発……。モンスターやスキルを人口で作ることができるなんて、地上の技術はどうなっているの?」

「凄い。としか言いようがないかな。俺も専門じゃないし、詳しくは教えてもらえてないからね。それはさておき2つ目、ダンジョン街の運営について口出しはしないで欲しい。勝手をすれば上の機嫌を害してこれまた面倒になるからさ。この辺は俺に任せて欲しい」

「それがさっき言った選別ってこと? また人間が死ぬの?」

「それをしたらあんたを怒らせるかもだろ? 大丈夫、ちょっと地上に連れてくだけだって。あと、ちょっと攻撃はするかもだけど……それも上の機嫌を取りのためだからさ、我慢してくれって」

「……私は夫ほど、他の人間に興味はない。夫と娘さえよければ最悪私はそれでいい」

「そうかそうか。ならこれも大丈夫と……」

「でも娘になにかあれば……」

「娘さんのダンジョン街での立場、安全は約束する。ただ宮平さんの抜け殻……これはこっちで保管させてもらうよ。万が一だと思うけどあんたが暴れないようにね。ま、あんたにこれをこのまま保管しておくことはできないだろうから、この提案はむしろ好都合だと思うけど」

「……」



 神宮はめんどくさそうに立ち上がると夫の身体まで足を運び、軽々とそれを持ち上げた。


 私はそんな神宮に返答することはしなかった。



「……全ての提案を飲んでくれるようでうれしいよ。それじゃあまずは洗脳スキル持ちのこいつを閉じ込めて上に報告。ダンジョン街の宝として保管になるかな? とにかく、これだけのことをしたとなれば俺の評価は上がるだろうし、今よりも自由ってわけか……随分楽しんだしたまには旅行でも行こうかな」

「変わってるわね。あなた。でもいいの? 誰かにここを任せるなんて、そんなに信頼おける人間でもいるの? もしかしたら私が――」

「あんたが矢沢を上手く動かしてくれるって信じてるよ。宮平さんの身体をこっちが保管するからってだけじゃない。俺は、こんなでも人間を見る目はあると思ってるんでね」

「人間じゃなくてモンスターよ」

「あはははは!! あんたとは気が合いそうだ!! そうだ! 洗脳スキルとあなたを隠すところはここにしよう! これこそ最強のガーディアンだ! いいよね?」

「探索者協会であれば矢沢を常に監視できる、わね。それに娘も……癪ではあるけどそうさせてもらうわ」

「決まりだ! どうせなら隠し部屋にしよう!! 矢沢さんが変に勘付かないようにね! あー! 下の奴らを意のままにするのって楽しいや! あの性悪爺さんたちの気持ちがちょっとわか……おっと、これはいくら何でも品がなかったね」



 それから私は探索者協会の一室に引きこもり、『洗脳』スキルを持つモンスターと一緒に幾年を過ごし、その効果を常にまき散らした。



 娘は生まれて間もなく、神宮の知り合いや契約、風竜の力のコントール下にある矢沢に任せることになった。


 念話を使いコミュニケーションはとっていたもののその姿を見ることはほとんどなく寂しい思いもした。

 だけど、その子がダンジョン街で平穏に過ごせている、それだけで私は幸せだった。



 宮平という苗字を隠した娘の名前は京極彩佳。


 この似非の極まるみやこで彩鮮やかな人生を送ってほしい、そんな想いを込めて名付けた。



 そうして私は戦うという選択をとらなかった、夫の意思を本当の意味で汲取らなかった。





 あの時の選択から約20年経った今、こうして危機を迎えているのはどこかで保管されている夫による恨みにも感じてしまう……。



「――宮平さん……。あなたはもう一度私に戦えと、そう言ってるんですね」



 私の今いる場所、そこの仕掛けを思い出した矢沢がこの部屋の扉に手を掛けた、そんな音がした。


 モンスターの『洗脳』を用いても、『誤解』を用いようとしてもそれは止められなかった。


 これらのスキルを上書きする『何か』が行使された、またレジストする『何か』が発揮された。

 契約は活きている、けど……あの時以上のレベルを引っ提げてきた僕と隠居していた私、その差は埋まるどころか抜かされていて、私は命令をするどころか逆転されることに抵抗するだけでいっぱいいっぱい。



 開かれた扉から差し込んでくる光と矢沢のその姿に、私はあの時の、ひどく荒れ果てたダンジョン街の映像をフラッシュバックさせてしまったのだった。

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