17話 十二重斬
脇腹に刺さった水の剣。
柄の部分に殺傷能力はないのか、ゴムのような弾力で、握ることができた。
激痛に耐えながらそれを一気に抜く。
水の剣が魔法として効果を失い、消えていかないのは、オロチ本体がこの魔法、水の剣をもう使わないものとして放棄したことで、その所有者が俺に移り、水の剣の維持を縄張りの効果で手助けされているから……だと思う。
とにかく、レベルもスキルも武器も整った上に相手は動揺している。
攻め時は、今。
「十二重斬」
俺にだけ見える12の腕。
それをオロチ本体の周りに全配置し、一斉に振り下ろした。
「く、あああああああああっ!」
腕、脚、尻尾は断ち切れ、鱗で守られている箇所には深い切り傷が刻まれた。
首や腹の辺りも断ち切ろうと思ったが、鱗の強度が想像以上で、傷をつけることしかできなかった。
ただ、血が噴水のように噴き出す様を見るに、手応え以上のダメージは与えられたようだ。
「流石になまくらの剣とは比べ物にならない切れ味だな。お前、大ダメージじゃないか」
「はぁはぁはぁ……。今のは、何?急に身体を切られて……。斬撃が飛んだ?いえ、それならもっと早い段階で気づけたはず……。はぁ、ちょっとイライラしてきたかも。その剣も全然消えないし、そこから魔力を通じて支配もできないし。まぁ元々私の魔力だから仕方ないのだろうけど。……あーっ! なんでこんな人間1匹でっ!」
オロチ本体は綺麗な金色の髪を激しく揺らしながら、地団駄を踏む。
これじゃあ大人な見た目が台無し。こいつ前に強者の立ち振舞い、みたいなこと話してなかったっけ?
「……決めた。何匹か死ぬかもだけど、『全員』で攻撃させてもらうから。さっきの攻撃の範囲からして、大勢でかかればそれを連続で使われても、誰かしらがあなたを捕まえられ――」
「十二重斬」
ペチャクチャと話を止めないことをいいことに、俺は更に攻撃。斬撃の全てを一点に集中させることで、なんとかオロチ本体の首を撥ね飛ばした。
何かをやろうとしていたみたいだが、それを許してやれるほど俺の心は広くないんだよ。
「……それにしても、案外呆気なかったな。レベル4000っていうのはあくまで『勝てるはず』のレベルでしかな――」
「そうね。まさか私もこんなに簡単にやられるなんて思ってもみなかったわ。でも……その威力の場合だと、1発だけなのね。そのスキル」
撥ね飛ばして地面に落ちたオロチ本体の首は、くるりと動いて俺と視線を合わせてきた。
まさかこいつ不死身――
「やっぱり全員で襲ってやった方が良さそうね。あなたたち、久々の出番よ」
オロチ本体はその状態のまま合図を出した。
すると身体が不自然な動きをしながら膨れ上がった。
どうやら、制御して飼い慣らしている竜たちが体内で暴れているらしい。
「準備は終わったみたいね。じゃあ……『解放』」
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