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168話【風竜過去】風に乗って

「――ふふ、それはもうしゃぶりつくしたでしょう?だから今度は私の中にある『この芽』が欲しいはずです」

「う、あ……ああああああああ!!」



 矢沢が血を流したままのその指で手招きをすると、モンスターがこちらに向かい始めた。


 政府が作り出したというこのモンスターは一体なぜ、これほどまでに人間を渇望するのか分からない。


 普通この状況であれば恐怖を抱くものなのだが、私はモンスターのその様子に悲しみを感じずにはいられなかった。



「普通に相手をしてあげてもいいですが……それは少し手間。ここに連れてくるのだって一苦労だったのに……。リンドヴルムさん、私がモンスターの動きを止めるのでその間に拘束を。宮平さんはスキルの発動準備を。……では始めましょうか」



 矢沢はすっと私たちの前に出た。


 それに呼応するようにモンスターは走り出し、両手で矢沢の身体を掴もうとした。


 だが、矢沢は焦る様子もなく肘を張るようにしてモンスターの両腕をブロック。

 モンスターの顎にその高そうな靴の先をぶつけた。


 私の見立てだとモンスターは30階層以降の強さ、だけどその攻撃をいなす矢沢はそれ以上に強かった。


 おそらく戦闘に長けた部門じゃない、あくまでここを統治するために派遣された政治的力を持っただけの人間がこの強さなのだから戦闘を専門にしているような軍の人間はより強力で手強いことが容易に想像できた。



 ただ私たちとの差が圧倒的に離れている、それどころか負けているとはこのときは思えなかった。



「今です。お願いします」

「はい。……『風封輪』」



 風で作った小さな手錠でモンスターの手首と足首を拘束。


 攻撃技に大したものはないが防御やサポートは充実していると自負している。



「――モンスターに対して、自己意識が低い存在でソート……付与可能な『誤解』……保有スキルの発動権限は人間が持ち、対応するためにお前は『変化』できる。それは拒否できないもの」

「う、あ……」



『――そして私の傀儡』



 動きを止めることに成功したモンスターに夫が接触。

 強化したスキルを発動させ、成功したことを知らせるようにモンスターが苦しむ様子を見せ始めると、ほんの僅かに矢沢の声が頭の中で聞こえたような気がした。



「……よし、成功した!これで『洗脳』を開始できる!」

「おお! では折角拘束もできていることですし、早速それに取りかかりましょう!リンドヴルムさん、大変かとは思いますが今度は効果の拡散をお願いします」

「え、ええ……」

「じゃあいきます!モンスターよ、人間である俺から命令を言い渡します。上位の……この地で暴力的に権力を振るう人間、あそこに見える人間に対して『洗脳』を発動してください」


 喜ぶ夫は早速スキルを発動するよう命令。


 こちら側にある窓から一人の人間を指さした。

 そしてそれを確認して私はその効果を風に乗せるため、人間の姿に近い状態の自分の身体に翼を顕現させ、はためかせた。


 すると窓の外から見える人間たちは、ぴたりと動きを止め、みるみるうちに上位も下位も、身分に関係なく挨拶などやり取りを始めた……わけではなく、次の瞬間何かを目指して走り出したのだった。

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