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167話【風竜過去】契約

すみません。

もうちょっと過去話続きます。


「ではあれをこちらに呼び寄せましょうか」

「あ、待ってください。実はその……問題があって」

「問題ですか?」



 作戦は分かった、それにその流れも。

 ただ肝心のスキルの強化を私はしたことがなかった。


 契約の際もそれらしいアナウンスはなく、矢沢がそれを当たり前に話していることに対してずっと違和感があった。


 なぜ矢沢はそれができると思ったのか、と。



「なるほど、『増長』は『あれ』から生まれた、しかもこれだけの存在であれば行使できるかもしれないと思っていたのですが……」



 『増長』、『あれ』。

 矢沢の口に出す言葉はこの時の私には理解ができなかった。


 神があのような状態になっていたこと、その力、そしてそれの管理を主に神宮率いる地上の人間が行っていること、私はこの時これらを知らなかった、また一部を忘れていた。



「すみません」

「大丈夫です。それも想定済みですから。ただそうなると……今この場で私とも契約を結んで頂けますか?」

「……理由を聞いてもいいですか?契約は通常信頼できる、好んだ相手としかしたくはなくて……」



 契約をしたいという思い、その感情の大きさによっては最悪の場合主導権を握られかねない。


 そのリスクを思えば決めたこととはいえ、不安はできる限り払拭しておきたかったのだ。



「私に発現したスキルは『構造理解』。大層な名前の割に全部を理解はできないんですけどね。特に強力なものはざっくりとしか。いや、それもできない場合もありますが……とにかく、あなたの強さがあればその領域ないにいる人間、或いはモンスターの魔力やスキルをある程度強化できるはずです。あなた『がた』はそういう力を持っている」

「あなた、がた……ですか」

「実際に目にしたことはないのですが、ダンジョンには似たような力でその領域を支配、コントロールしているモンスターがいるようでして。最近その存在が活発に動き回っていることで私もその力の一端を知れた……というわけです」

「あのおてんばの水竜……本当に危機感が薄いんだから」

「というわけで、その領域の構造をややですが理解しているので、スキルを強化するという使い方もこれをお伝えさせて頂ければできるかと。嫌かもしれませんが契約して力の理解を共有させてください」



 頭を下げる矢沢。

 その奥にはモンスターに傷をねぶられて悶える拘束中の人間。


 迷っている時間はなかった。



「……では血を差し出してください」

「分かりました」



 契約は言語問わず意思の疎通が可能な生物とのみ結ぶことができる。


 血の提供を求めたのは契約の質を上げるためで、絶対これが必要というわけではない。


 そもそも私は人を食うことはしない。

 だから矢沢が指にナイフを当て、垂らしたその血に口をつけることも本当はしたくなかった。


 人の血は私の好みとはあまりにもかけ離れていた。



「……これで、完了ですか?」

「はい。これで……」



 契約の完了と共に私と矢沢の間で指定されたスキルが共有された。


 そして同時に身体の奥にドロッとした何かが注ぎ込まれたような感覚が襲い、私は咄嗟に胸を押さえた。


 共有したスキルや領域、私たちで言うところの縄張りについて以外に何かかわったアナウンスがあったわけでもダメージを受けたわけでもない。

 だからこの時の私はそれを子供の影響と考え、深く気にしないようにした。



「強化の方はできそうですか?」

「色々と条件はありましたが、問題ないと思います。あなた、ごめんなさい。対等な関係を維持しながらは難しくて……だから膝をついてこの手に口づけを――」

「それくらいお安い御用だ。むしろ俺は君の眷属となれることを嬉しく思うよ」



 私は早速スキルを強化すべく、膝をつく夫に手を差し出した。


 そうして口に手が触れると自分の力は吐き出され……少しするとそれは大きくなって戻ってきた。


 強化に必要な代償は自分の力。魔力。

 主として僕に分け与えるという意味合いだ。


 夫とは常に平等でありたい、そう思って今までは主従関係をつくっていなかったが、仕方がない。


 複雑な気持ちを抱きながらも矢沢に完了を伝える視線を送る。

 すると矢沢のその顔は嬉さからとは違う、不気味な笑顔を顔に張り付けていた。

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