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165話【風竜過去】決心

「矢沢彰人。『宮平さん 』や『神宮さん』とは同じ立場になりますが後輩にあたります。なので、奥様も畏まらずに接して頂ければと思います。さて……今日わざわざここに連れてきて頂いた、その経緯からお話させてもらってもいいでしょうか?」

「……はい」



 矢沢彰人と名乗るそいつは笑顔で私に近づいてきた。


 夫以外の人間を信じることなんてそうそうにできるわけなんてないが、人間が組織を重んじ、これに歯向かうようであれば夫が他の人間以下の扱いを受ける可能性もある。


 それに夫が連れてきた人間を無下に扱うということなどこの時の私にはできそうもなかった。


 だから私は矢沢の話に耳を傾けた。



「風竜……リンドヴルムさんもご存じの通り、地上と地下の人間で現在大きな差別が生じています。過剰な暴力で失くなった方もいて……私も非常に辛い思いをしてきました。ただ今まではより上の、地上にある政府組織による圧力によってこういった感情は押し殺すしかありませんでした。しかし、長年政府の犬として働いてきたことでこのダンジョン、この街を任されることとなり、監視も緩くなりました。これはまたとないチャンス。この街から地上に、政府に、反旗を翻したい。そのためにはまずはここを下位の人たちの楽園に、探索活動を上位の人間たちに代わらせて統治したい。そう思いここにいる同僚、あなたの旦那である『宮平さん』にお話をさせて頂いて……あなたの力を貸して頂こうと、そう思った次第であります」

「そうでしたか……でも具体的に私は何を?私戦闘はそんなに……」

「旦那様、宮平さんが持つ……いいえ、宮平の一族が持つ『誤解』というスキル。これの強化、さらには既にこちらで獲得している『魅了』の派生、取得できるであろう『洗脳』スキルの効果を拡散して頂く、また私とも契約を結んで頂ければと思いまして」



 風に乗せて効果を拡散することは確かにできる。

 これを知られているのは多分私がこの場所を知られないために夫のスキル効果を小規模で拡散していたことがバレたから。


 スキルが強化できるというのは外の知識なのだろう、残念ながらそれを私は知らなかった。


 契約は夫と生涯を共にしたいと思い、結んだだけだったがそれに付随する効果を矢沢は求め結びたいようだった。



「実は俺がここの指揮命令を任されることになったことで、宮平の一族はここの一等地に移り住んでいいという風になったんだ。しかも発現したスキルが一族のみのもので、今後のダンジョン街を豊かにするかもしれないからって移り住んだ人たちには毎年多額の支援金が送られて、俺の兄弟や両親も今はこっちで暮らしてる。それでも……幸せそうに見えるけど、やっぱり地上で暮らしたいってたまに溢すんだよな……。あんなに虐げられてたってのに、本当の陽の光、潮風、ずっと暮らしていた町とぼろい家が恋しいってさ……」

「……。協力すればそれも叶う、かもなのよね」



 夫の陰りある顔、それを見ていた私の口は驚いたことに勝手に開いてしまっていた。



「――その通りです! 特にこの『洗脳』スキルの効果拡散が成功すればもう怖いものなしです。まずはここにいる奴ら、監視をしている奴らを手中に収め……政府を脅して下位の人間を差別から解放させます」



 そんな私を見て矢沢は嬉いそうに笑った、かと思えば真剣な眼差しと口調に切り替わった。


 矢沢のことはまだ分かりきっていなかったが、その目には力強い決心が見えた。


 だから私も意を決しないといけない、そう思った。



「……。私、やるわ」

「ありがとうございます! であれば週末探索者協会へおいでください。まだ開発途中ですが、あそこの上からであれば充分に『洗脳』の拡散ができます。私もそのための準備を水面下進め、済ませておきますから。それでは私のような邪魔者はとっとと退散させてもらいます」

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