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163話【京極視点】不向き

「苺さん!?」

「大丈夫……じゃないみたい。なら……ちょっと我慢して」



 ガラス扉から勢いよく現れたのは苺さん。

 流石は高ランクの探索者、こっちの状況を一目で理解してくれたみたいで耳に片手を当てて即座に攻撃の合図をくれる。



 こっちから連絡を取るのは難しいし、きっと誰かがこっちの状況を伝えて連れて来てくれたんだわ。



 母さんの言葉からして会長に何かがあって……事態は急を要する。

 苺さんの力添えがあれば人質になりそうな職員も大丈夫だろうし……容赦なく攻める。



「種属解放。旋風聴覚保護……」




 ――あ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!




 苺さんが大きく息を吸い込んだタイミングで私は自分の中にある竜の血を引きだす。

 自在に操れる力には限度があるけど、少しばかりの風の操作ができる程度には融通が利く。


 私は風を渦のようにうねらせて頭の周りに流すと、周りの音を風の音で遮断。

 完璧ではないものの、思った通り苺さんの咆哮で身動きが取れなくなってしまうということはなかった。


 そう、脱獄犯の女性や他の職員たちと違って。



「――私はこっちを!」

「じゃ、こっちやる」



 そうしてこの場で動けるのが私と苺さんの2人だけになると、細かいやり取りをすることなく私たちは動き出す。



 脱獄犯目掛けて肥大化させた斧を振りかざす苺さん。

 その背後で標的を協会職員から苺さんにシフトさせて攻撃を仕掛けようとする影。


 私はこれらを沈黙させるために種の解放によって露わにさせていた尻尾を地面に叩きつけた。

 


 私は地面を攻撃することによる反動、それと尻尾に常時纏わる風を利用しての高速移動が可能。

 だけど、移動系スキルのように向きや速さを簡単に変えられるものじゃない。


 だからこの勢いを自分の意思で殺せない。そもそもこの姿と力を普段使わないから出来たんだとしても、無理なのだろうけど。



 ――ドン。



 眼を瞑り衝突を待ち……鈍い音が響いた。


 攻撃というにあまりにもおざなりな突進が数匹の影にヒットしたらしい。


 ぶつけた頭がなんだかひりひりする、けど影は私なんかよりもよっぽどダメージが大きいようで、当たった箇所が大きくへこんでその場にうずくまってしまった。



「いった……。えっとえっとチャンスだから拘束……イメージ、イメージして……」



 幸運なことに他の影たちは人質ではなく今度は私を狙って行動を開始。


 それらを取り押さえるには絶好のタイミングだと思い、私は慣れない風のコントロールを試みる。


 尻尾を揺らして大きな風の流れを作る、それを今度は鞭をイメージして、回して……影を縛る。


 母さんのように頭の中にあるイメージだけでそれを操れればいいのだけど、私はどうしても身体を大きく動かしたりしないと難しい。


 母さんはそれでもいいって、戦いなんてしない方がいいってそういってくれていたけど、こんなことがあるならもっと戦うことから逃げずに生きていればよかったかもしれない。



 戦いが苦手、嫌い、だからこうして探索者協会の受付として仕事をさせてもらって……それを快く受け入れてくれた会長には恩を感じていたのに……。



「嘘ですよね、会長」

「こっちは終わった。そっちも……終わった、の? 影、そこまで強く縛らないとまずい?」

「え? あっ! いえ、そこまでは……。あの、協会まで駆けつけて頂きありがとうございます」



 少し余裕がでて、会長のことで頭がいっぱいになりかけていると苺さんからの報告が上がってきて……無駄に力いっぱい影を風で縛り上げていたことに気付く。


 このコントロールができないからやっぱり力を使うのは苦手なのよね。



「あ、あの……そろそろ下ろしてもらっても」

「あ、忘れてた」

「あの、その人って……」



 苺さんが肩に担いでいた男性を地面に下ろす。



 さっきまでは戦いに夢中で気にしていなかったけど、この人って……ダンジョン街の怪盗って呼ばれてた人、だった気が。


 ワープスキルを使った犯罪者で、取り押さえるのに一苦労で……。



「これは使えるかも――」




「――おーい!! 大丈夫ですか!! 俺が来たからにはもう安心……ってもう終わっちゃった感じ? いやぁ、俺の出番はなしかあ。思いっきり戦いたかったのになあ、あはは」




 苺さんから大分遅れて宮平さんが到着。

 その陽気な雰囲気で場が和みそうになる。


 でも、本当にまずいのはここからになる。



「宮平さん、苺さん。緊急依頼です。この人のワープスキルで会長室に急いでください。ここは私が押さえてますから……お願いです、会長を、母さんを救ってあげてください」



「え? それってどういう――」

「みや、質問後こっちきて。それで、お前はワープ。使わないならお尻百叩き……」

「百叩きは勘弁してよ……。もうこうなりゃ全身筋肉痛で明日動けなくなろうが知ったこっちゃねえ!!」

「……それ我慢するだけでワープできたの? 威勢の割になんかしょぼい。……京極、大丈夫。任せて」



 戦闘はやっぱり向いていないと痛感させられた。

 だから私はいつもの様に探索者の皆さんに依頼を伝えると、全員が無事であることを祈りつつ脱獄犯と影を拘束。


 駄目もとであの探索者にも最上階の会長室まで急いで欲しいと連絡をするのだった。

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