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162【2視点】突入

「そんじゃいきますか」

「みや、危ない」

「おっと……。でもこの程度なんてことないな! 再生もしないじゃないか」



 浦壁や幸村たちが外でこれ以上の敵を侵入させないために防衛戦。


 私とみやが脱獄犯の……リーダーだっていう人を連れて潜入を試みる。


 脱獄犯なんかと一緒に行動するのは嫌だなって思ったけど、もうこの人には抵抗する意思が見えない。

 それにここに居る人を説得したり移動するのに便利だから、今は我慢。


 それにしても……影がやけに多い。


 そんなに私たちの邪魔をして、協会を占領しようとしてなんの意味があるんだろう?


「無駄に数を増やして、質を悪くして……不思議。意味わかんない」

「……。俺たちの目的は地上に出ること、自由を手に入れることで……そのために地上に進軍使用と考えてたわけだが、それに際して多くの探索者、強者を抱える協会は邪魔。だから地上に向かう班と協会を狙う班とで分かれた。ってとこだと思う」


 協会の入口付近でそれを阻む敵を倒して進んでると、リーダーが真剣な顔で語り始めた。

 語るのはいいけど、ワープできないのかな? さっきからは走ろうともしないし……まさか嫌がらせ? まだ抵抗する気があった?



「あの、説明嬉しい。でもワープしてくれるともっと嬉しい」

「あっと……それが、その、あんまり連続で、しかもこの人数だったわけで……ガス欠っす。正直歩くのもしんどい」

「役立たず」

「だから、こうして頭使って貢献しようとしてるんだって! この状況でこいつらみたいに暴れまわるほど俺は馬鹿じゃないっての!」


 私が斧を向けるとリーダーは焦ったように早口になる。

 本当にリーダーだったの、これ?



「苺! あんまりイジメるのはよくないって! 罰はちゃんとした人が後で決めるから」

「……わかった。でも遅いのはあれだから担いで連れてく」

「え? おいおいおい! お嬢ちゃん!! ちょっとちょっと!! これは流石に恥ずかしいって!」

「うるさい」



 話してる間にも道が開けた。

 だから私はリーダーを肩に乗せて突っ走る。


 全然重く感じない。前よりも明らかに力が強くなってる。



「突入!!」

「ちょっと、また影が!!」

「関係ない。それより喋ってると危ない」



 ――パリン。



 そんな力を持て余した私は地面から生えるように現れた新しい影、ダミー……とにかく敵目掛けてジャンプキック。


 でも敵を吹っ飛ばすためだけのはずだったのに、勢い余って協会の入口、ガラス扉に衝突。


 私は頭を抱えてるだろうみやの顔を思い浮かべながら、今は弁償とかそんなことは考えずに目の前にいるそいつらと、教会の職員さんたちに視線を向けたのだった。



 ◇ここから京極視点




「――あなたたちの目的はなんですか!? こんなことをしたところで罪が無くなるわけでもないでしょう!」



 油断していたわけじゃない。

 だけどまさか協会にこれだけの数の敵、脱獄犯が押し寄せるだなんて……。


 街を優先するように連絡をしたのは間違いだったかしら。



 会長もこんな騒ぎだって言うのに連絡が取れないし……遥君たちはどうしてしまったの?



 嫌だけどここは私が戦って……ううん、下手に動けば敵側にいる人たちが人質にとられかねない。

 私一人で動くよりも、今は助けを待つ方がいい。



 なら、とにかく時間を稼がないと。



「――ただの嫌がらせって奴と……。それと……。そうだな、まず外には、地上には俺たちがまだ知らないもの……力が溢れている。現に外からきた奴の力でダンジョンはできたんだろ?」

「それを知ってたんですか……」

「先に行動したやつらの仲間はもちろん、あの狭い更生施設だ。仲が悪かろうが良かろうが話は筒抜け。作戦を知らねえ奴らでもこれを機に地上へ、って動いてもおかしくはない」

「ならあなたも地上を目指せばよかったじゃないですか? わざわざこんなところに来るだなんて……」

「そりゃ地上は魅力的だが、あっちはあっちで強力な探索者や……地上の人間がいたっておかしくねえ。だったら貧乏くじを引いたふりして手薄な状態のここをせめてさ……この街の奴らを洗脳するそれを手に入れるのがいいとは思わないか?」

「……洗、脳?」



 脱獄犯の内、先頭に立つ1人の女性が発した言葉につい首を傾げてしまう。

 だって、そんなもの聞いたことがないから。



「おかしいとは思わないか? 探索者たちの管理だけじゃない、この街の自警団も地上との交易も全部この探索者協会が大きく関与している。どこの組織だって探索者協会のいいなりで、素材の買取価格や市場、その他もろもろも探索者協会が勝手に決めてる。それなのに、だーれもなんにも文句を言わないなんてよ」

「……それは、ダンジョンの危険性やモンスターの強さから素材の価格を適正に測れるのが探索者協会だけだから……」

「そんなの外の探索者、個人でもできる。実際、それをやって素地の買取を始めようとした奴もいた。だけどよ……不思議なことにどいつもこいつも消えた。なんの前触れもなく。しかも……そいつらのことを、私でさえちょっと前まで思い出せないでいた」

「え……」

「つまりだ。探索者協会がアイテムか何かを使ってこの街の人間を操ってる。で、邪魔な奴は排除。それしか考えられねえんだよ!」



 男はそう言うと眉間に皺を寄せて観葉植物を鉢ごと蹴飛ばした。

 きっとその人、その人たちとは親しい関係だったのだろう。


 そして、彼も……似たようなことが原因で更生施設に送り込まれた可能性がある……それを今の今まで思い出せないで、いた?



 それを思い出せたのは遥君たちが出会った更生施設にいた異界の人間が原因?


 それとも……さっきからこびりつくようにある頭痛、これが原因?

 なんでか女性にだけしかこれは起こっていないようだけど……。



 もし……もしこの人が言うことが本当で、とにかく催眠効果が薄まっていたとするなら……それをまずいと思った会長が何かしらの対応に向かっても、おかしくはない。


 でも……まさか会長がそんなことをするなんて思えない。だって、それだったら反乱分子になり得る探索者を放っておくなんて……。



「あ……。会長、遥君のスキルを宮平さんに頼んで探って……。ううん、そんな……だからって処分するようなことはなかったじゃない」

「心当たりがあるか? まぁ、いろいろ繕ってるんだろうな。こうなってもすぐに反乱されないように」

「違う! そんなこと! だったら契約している母さんだって……。ありえない!! そんなこと!!」

「信じないならそれでいいさ。時間を使い過ぎたね。さて、なにも知らないのなら……あんたたちは問答無用で拘束。人質になってもらうよ。ふふ、この影は利口だ。使用者と関係の深い私たちのいうことを聞いてくれる」



 女の人が右腕を広げると人型の影たちは伸びて協会の人間まで伸びる。


 時間稼ぎはここまで。動こうが動かまいがどうせみんな人質にとられるのなら……私は戦――




 ――パリン。




 意を決してお母さんから受け継いだ力を行使しようとすると、入口のガラス扉が弾けた。


 そして……。




『――もう一回、こいつを……。だ、れか……。わ、私の可愛い子、会長室に。はや、く……』




 アナウンスじゃない。久しぶりに母さん声が頭の中で流れ、消えていった。

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