161話【苺視点】にょん
「お前は……幸村慎二」
「……服、着てない。変態」
ウェーブがかった髪を罰が悪そうにわしゃわしゃ触ると、幸村慎二はわざとらしくため息を吐いた。
服着てないし、態度悪いし……うん。嫌いかも。
「このままでいろって命令があったんだ。不本意だが、俺にはそれを背けられない。ちっ。強くなっても、魅了の効果が強力になっても受けに関しては変わらなかった……だからこそさっきの人間、地上のやつが異常ってのはよくわかった」
「見てたのか」
「変態覗き魔」
「……お嬢ちゃんさぁ、折角助けてやったのにそれはないだろ」
やれやれと首を振りながら近づいてくる幸村。
格好は変だけど、元気そう。
……こいつだけ戻ってきたってことはもしかしてみんなは――
――にょん。
「おい! そっちが済んだならこっちの応援を頼む!影スキルでできたモンスターや人間が分裂して……そこら中で、考えなしに暴れ始めた!」
空中に突然ぽっかり黒い穴が開いた。
そこから顔を出した男の人……前に見たことある。
確か壁なんちゃらだっけ?
「浦壁さん!? そのスキルは一体?もしかしてワープできるようになったんですか?」
「お前は……宮平か。それに、苺もいるな。他の高ランク探索者は金持ちの居住区に駆り出された。ここにいる影はまだ大丈夫そうだからこのまま幸村と一緒に協会付近まで飛ばせてもらうぞ。脱獄犯たちが指示してるのか、あそこだけやたらと数が多い」
「え、ちょっとま――」
「悪いが宮平、時間がないんだ。嫌だと言われても移動させてもらう。おい。ワープ頼んだぞ」
みやの話をしようとしても無視。
壁なんちゃらじゃなくて、浦壁もあんまり好きじゃない。
「はぁ。人使い荒すぎるだろ。まあ今さらあんたらに歯向かったところでどうにもならないし、これで減刑してもらえるんだったらする以外選択はないんだけど」
浦壁の横からひょっこりとまた違う男が顔を出した。
遥たちと行動してた時と違ってむさ苦しい。
「あと1……2時間で影は消える可能性がある。それまで俺は協会にこれ以上入り込まれないように外を、お前らは中を頼む」
「じゃ、移動するぞ。舌噛まないよう気を付けてくれ」
合図があると私たちの足元にも黒い穴ができた。
落ちるっていうより沈む感覚があって少し気持ち悪い。
これ、本当に問題ないのかな?ってまだ大事なこと聞いてなかった。
「ねえ、遥たちは――」
――ひゅ。
ゆっくりと沈んでいた身体は急に穴へ吸い込まれた。
あっという間に景色は変わって、少しだけ高い場所に放り出される。
尻もちついちゃった。あと舌噛んだ。
最悪。嫌いな人多いし、地上の人間は何も教えてくんないし……イライライライライライラ。
『種の特徴を確認。能力の一部を解放します』
アナウンス。しかも聞いたことのないタイプ。
でも、とにかく……力が湧く。
「……みや、ちょっと憂さ晴らしする。なんかまた、強くなったっぽいから」
「……了解。やばかったらこっちでフォローする。今日はもう存分に暴れてokだよ」
みやからgoサインをもらうと、私は目の前にいたいっぱいの影をぺしゃんこになるまで叩き潰しながら協会の入り口を目指した。




