160話【苺視点】 知りたい
「地上の人間……。私、初めて見た」
「右に同じ。そもそも地上の人間がこんなとこまでくるなんて聞いたことがない。交易に関わっている人以外会ったことはないんじゃないか。……つまり、この状況は異常」
「もしかして、あれと話したから――」
「苺!」
神様のことを話そうとするとみやに口を押さえられた。
あれがばれれば何をされるか分からない。
普通に見えるけどみやもこの人の強さに大分緊張してるみたい。
「……やっぱり色々聞いているみたいだね。接触しているのは知っていたし、そうだろうなとは思っていたけど……敵視されるのは違くない?君たちのここでの暮らしは充実しているはずだし、今だってみんなの身を案じてここまで来てあげたんだよ?」
「……来てあげた、か。随分上からじゃないか」
「宮平君、だっけ?言葉狩りは良くないと思うな」
「俺の名前も知っていると……」
「……。まあね。だって生かすも殺すも俺、いや正確には上が判断するんだけど……とにかく、管理している人間のあれこれ、特に優秀だったり面白い人間の情報は知っていないと」
不気味に笑う男の人、神宮。
怖いけど……敵意はない?
「ねえ。戦わないの?」
「君は苺ちゃんだね。さっきも言ったけど俺はみんなの身を案じてきただけだからさ。戦う気はないよ。それどころか……君には俺の力がいくらか反映されている。つまりは強化してあげているみたいなんだけど」
「……これ、あなたのせい?」
頭のこぶを触りながら男をみる。
知りたい。私が何者なのか。
だって私は気づいたらダンジョンにいた。
……ってあれ私、なんでこれ気にしてなかったんだろう?
「それは……そうだけどそうじゃないかな」
「……どういうこと?」
「ちょっと複雑なんだ。これ以上の説明は勘弁こうむりたいね。でもまあ1つ言えるのは……俺たちを敵に回すのは愚か、ってことくらいかな」
神宮の細い目が一瞬大きく開いた。
それだけで背筋が凍ったみたいに冷たくて、動けなくなる。
「さてと、君は利口でここまで街の人間に俺たちのこと、あれのこと、諸々話すことがなかったからこのまま一先ず放置でok。他の影響を受けた人間と……宮平君のそのスキルだけはちょっとまずそうかもだからそれだけ対応させてもらおうかな。いやあ良かった。一応行動を監視して。……大丈夫。選別じゃないし、いつもの『間引き』とも違って戦わない。殺さないから」
「!?」
「みや!!」
一瞬で神宮が目の前から消えた。
しかも、いつの間にか私たちの後ろに移動して……。
みやの頭に神宮の手が伸びる。
助けたい。でも不意を突かれて、間に合わな――
「――魅了」
「……へぇ、そんなこともできる人間も出てきたのか」
「え?」
「みや、今のうち!」
遠くから微かにスキルを発動する男の声が聞こえた。
それで神宮の動きが止まって、私たちは慌ててそこから離れる。
「俺に干渉できるだけのスキル。こりゃ大規模なそれが必要かもなぁ……。はぁ。面倒だから他のダンジョンと違って手荒にしたくはなかったんだけど……流石に上から言われるか。……ってもう連絡来てるし。バレるの早ぁ。……てなわけでちょっと急ぎの用ができたから俺はここでお暇させてもらうよ。えっと、今度会ったときは……いっぱい殺さないといけないかも知れない。だからね、そうなりたくないなら今まで通り混乱を起こさないよう、大人しくしててね。それじゃあね、没落家名の宮平君と混血の苺ちゃん」
手を振っていたかと思えばまた神宮は姿を消した。
緊張感がほどけてどっと疲れがでる。
「助かった、のか……。はぁ、ここんところしんどいことばっかり。もう勘弁してくれよ」
「うん。温かいお風呂入って、いっぱい寝たい」
「――それはまだ無理だ。外が忙しいからあんたらまだまだ働いてもらうぞ」
みやと顔をあわせて息を吐く。
そんな時、さっきの声の主が目の前に現れた。