159話 【苺視点】また……
「――はぁはぁはぁ……。これで、大体片付いたか?」
「多分。もうそれらしい気配、ない。大丈夫」
「気配察知……。それについては自信あったんだけど……まさか苺とこんなに差をつけられるなんて」
「いっぱい戦ってたか、そうじゃないかの差。みや、お金儲けの話とか、そんなのばっかりだったから」
「それも大事な仕事だっての! むしろ面倒な役回りを受け持ってることを感謝してくれてもいいんじゃないかな?」
「昇進とお金儲け担当、ありがとう」
「な、なんかそう言われると俺ろくでもない奴な感じしない? まぁまちがっちゃいないんですけど……。さて、それじゃあ他の様子を見に行こうか。ここ以外にも被害は出ているかもしれない」
「うん」
低ランクの居住区へ侵入してしばらく。
私と宮平……みやと私は影で出来たダミーと脱獄犯の捕獲、それと住民の避難を促していた。
すごく忙しくていっぱい時間が掛かっちゃったけど、もう敵の気配は感じない。
気配……前までも察知はできていた、けどだんだんそれが鋭くなって、今なら死角から攻撃を仕掛けられても避けれる、反撃できる自信がある。
「……。なんだか、モンスターみたいかも」
人間の存在を襲ってくるモンスターの察知能力は異常で、それにいっぱいいっぱい苦しめられてきたけど、多分あの子たちって今の私と同じような能力だった……のかも。
便利、でもあれもこれも分かっちゃうのは落ち着かない。
モンスターたちがイライラモードとか、短気ちゃんなのってしょうがないことなんだ。
「苺、大丈夫か? 流石に疲れたか?」
「ううん。みやより体力ある」
「あはは……手厳しいねえ。でも『誤解』スキルを使えば疲れも一時的になかったことと誤解させれるんだぞ。もしあれなら特別に苺にだけ使ってあげようか? 今ならだれも見ていないだろうし」
「……。それ、あとが怖い。でも……ちょっとお願いしたいかも」
「なんだ、やっぱり疲れてるんじゃないか。ちょっと待ってろ、ここをリラックス空間と『誤解』させて……」
みやは私の頭にポンと手を当てた。
嫌な感じはない。というか、なにも変化がない。
スキルが失敗した? こんなことあのみやらしくない。
なにか……おかしい。
「みや?」
「スキルが、利かない。これ……俺よりも先になにかが……。」
『――んー、余計なこと知られちゃったかぁ。まさか俺たちに近い力のスキルを使える奴がいるなんて。いやはや、見かけによらず用心深いようだね。感心感心。……って俺のやっつけ仕事が甘かったからスキルに気付かれただけだったりして』
またあの声。居住区に入って来てたんだ。
気づかなかった。こんなに気配に敏感になったのに。異常、ちょっと怖い。いったいどこ?
「ここだよ。ずっとこれくらいの近さで見てたんだけど、いやぁ気付かないものだね」
小さくて不鮮明だった声がしっかりと聞こえた。
急いで振り返るとやっぱりさっきの男がいた。もう気配を殺さなくなったみたい。
感じる。この人……凄い強い。私たちとは比べ物にならない。
「みや! 下がって!」
「分かってるっ! そんでもって、たまには役に立たせてもらう!」
私が声を掛けるとみやも後ろに飛んだ。
飛びながら両手で四角を作って、そこに男の人の姿を収めた。
『誤解』スキルは簡単な効果の付与ならこれでも可能って、前言ってた……ような気がする。
――ばち。
「なっ!? かき消された、だって……」
「残念。それは俺たちには効かないよ。『反逆者』対策はばっちりさ」
弾ける音。
それと一緒にみやの身体が大きく仰け反った。
みやのスキルが効かないなんて、初めて。
「――誰、お前。すごく嫌な感じ」
「初対面の人にそんなこと言うもんじゃないよ。『混血ちゃん』。でも、そうだな。君たちにはこの事態を収めてくれた感謝がある。だからちょっとだけ教えてあげるよ。まあ、すぐに忘れることになるけど」
男の人は背筋を伸ばして身なりを整えて私たちを見る。
その視線から逃れたいのに、逃れられない。
「このダンジョンの管理を主に担当している、神宮朔太郎。……地上の人間です」




