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157話【陽葵視点】強いの

「――!? あなた……わけの分からない、ことを……。……。……。……。ふ、ふふ。だったらなんで動揺しているのかしら?」

「陽葵、さん?」

「ありがとう、遥君。もう大丈夫だから……。このままだと、遥君まで燃えちゃう、わ」

「わ、分かりました」



 まだ中途半端ではあるものの赤から身体の主導権を奪い返すことができた。


 だからまず私は遥君に感謝を告げ、身の安全を優先するよう促す。


 遥君の顔から不安は消えていないけど、ここで私が私であることの判断、信頼をしてもらえたのはきっと私を家族……ううん、それ以上に知ってくれているから。


 直接私を褒めてくれることも、慎二みたいにやましい気持ちで近づくこともないけど、ずっと私の背中を見続けてくれた。これはその証。


 それが嬉しくて、嫉妬心は晴れていく。

 声に、諦めない気持ちに力が宿って……私の強い姿を見てもらいたい、その欲求が膨らむ。



『くそ! 契約上は私が主! それを塗り替えることなんてあり得ない!! しかもそれがこんな……こんな誘惑程度で!!』



 頭の中で喚き声を漏らす火竜、じゃなくて『赤君』。


 身体を共有していることもあって、その羞恥心と怒りは嫌ってくらい伝わる。

 それはあまり気持ちのいいものじゃない、でも私の出した答えが正解だって分かるこの清々しさはたまらない。


 私の身体に気をとられてしまう赤君は身だしなみに疎くて、遥君みたいな男性よりも私やハチさんを好んで玩具にしようとした。

 人間の身体になるときに顕現した服、これも無意識のうちに身体のラインがあまりでないものを選択。


 材料は少なかったけど、私は赤君が男性……モンスターだから雄という表現がいいのかもしれないけど、とにかく女性を意識する存在だということに気付いた。


 これはさっきの動揺する様子に重ねて見ても明らかにコンプレックスになっている。



 人の弱みに付け込んで身体まで操ろうとしたんだから、私がこれを利用するのは構わないはず。

 それに少し可哀想だとは思うけど……これを利用する私にだって覚悟はいるんだからいいわよね。



『私の方が魔力もレベルも生き物としての格も上!! 少々痛めつけてでもしっかり飼いならしてあげる!!』



 手から全身に回り始めた炎が強くなった。


 赤君は私を制御しようと今更必死になっているみたい。でも、それはもう遅いの。


 契約は好んだ相手と結ばれるのが通常。だからハチさんは遥君と契約をして……その主は遥君になった。



 だったら、完全に私が赤君を魅了してしまえば……今の立場はひっくり返るはず。

 幸運なことに私は赤君のタイプでもあるみたいだから、不可能じゃない。



「誘惑の居合デコイクイックドロー

『あなた、何を!?』



 腰に提げていた剣に手を掛けてスキルを自分自身を対象にして発動。

 必死な赤君は思いがけない私の行動に抵抗する術がなかったのか、私の視線を私から逸らせなくなった。


 それを確認すると私は自分自身を、纏わりつく炎ごと斬るために剣を抜こうとした。



 ――ピキ。



 これをまずいと思ったのか、赤君が最後の最後に反抗。

 抜こうとする力と止める力が作用して、腕に割けそうな痛みとどこかが断たれた音がした。



「くっ、ああ!!」



 痛くて声が上がる。それを聞いて遥君がまた私に近づこうとする。


 でも……。



「大丈夫って……言ったでしょ。私、強いのよ。こんなの痛くもないし、恥ずかしさだってなんてことない。だからしっかり見てて、遥……君っ!!」



 私は心配してくれる遥君をその場に止めて、そして……。



 ――すっ。



 炎と自分の服を切った。


 下着は……多分完全に断たれていない。

 それでもすぐに隠したくなる気持ちが湧き上がろうとする。



「……。どう、綺麗なものでしょ?」



 それを押し殺して私は堂々と立つ。


 すると赤君の羞恥心と興奮が熱となって伝わり始める。

 自分の中でせりあがる雄としての感情を殺すためなのか、余裕がないのか、もう言葉を発してはこない。身体をコントロールされる感覚もない。


 今間違いなく私が有利に立った。この状態を維持するために……あとは契約を書き換えさせるだけ。



魅了チャーム

「しまっ――」



 刀身に映る自分に向かってスキルを発動。

 赤君の考えが、行動が面白いくらいに手に取れる。



「契約を書き換えて。主は私。あなたは奴隷。これは、今後塗り替えられない。ってね」



『――契約が更新されました。橘陽葵が正式に火竜の主となりました。キャパシティの問題によりハチとの契約が破棄されました』



 赤君からの返事はなかったけど、代わりに私の勝ちがアナウンスされる。



「勝った……。あはは、私……。勝ったよ、遥君」

「はい。でも、その……まずはこれ着てください」



 私が戦いに勝つって確信してくれていたのか、遥君はいつの間にか私のもとまで近づいていて、自分が着ていたパーカーを肩に掛けてくれた。


 恥ずかしそうにするその顔はとても赤い。



「……。どの子もこの子も、可愛らしいわね。このくらいで照れちゃって」

「いや、でもこれはだって……。恥ずかしくないんですか?」

「恥ずかしいわよ。でも言ったでしょ。私は強いの。だって女だからって、遥君よりもレベルが低いからって、ずっとずっと大人で先輩なんだから」



 私がそう言って微笑みかけると遥君も笑い返してくれた。

 

 そう、私は今日も明日も明後日もずっと道標として歩き続ける。

 それでもって……。



 ――ちゅ……。



「だからずっと、ついてきて……遥君」



 この可愛い後輩を魅了し続けてやるんだから。

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