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155話【陽葵視点】私、じゃない?

「ほら、私の魔力は心地よいでしょう?」


 火竜の声が近くなり息遣いまで分かるようになると、腹の底から体が温まり劣等感は薄らぎ始めた。

 押しつぶされそうになっていた胸のそれも和らいで、だんだんと何でもできる……そんな自信がぽつぽつと沸いていく。


 よく見れば私の身体には炎が纏わり、これを少し力を入れると自由自在に動かせ、爆発を起こすこともできることが分かった。


 滅級魔法、いやそれ以上の魔法だってこれなら……。


「これを、私が?」

「そうです! しかもこれは力の一端に過ぎません。さぁ、今度こそ私と契約をしましょう」


 そう言うと私の前に人が……ううん、火竜が現れた。

 ぼさぼさとした髪とは反対に顔はハチさんに負けず劣らずの美人さん。


 でもなんだろう、この違和感。

 寝坊助だからって、あんまりにも顔や口調に合わないがさつな装いで……本当の火竜は、どっち?

 火竜は自分を偽ってる? なんのために嘘を……。嘘、嘘……か。


「私は嘘つきとは――」

「要らないんですか、強さが! こんなにも素晴らしい力を! きっとこの男性もこの力があれば振り向いてくれるでしょうに」


 私の言葉を遮って火竜は宙に大きめの円を描いた。

 するとそこだけに光が灯り、さっきまでいたダンジョンが映し出された。


 そして……。



「――遥、君。ハチ……さん?」



 抱きつくハチさんとそれをけっして嫌がっていない遥君の姿がそこにはあった。


「うーん……。お2人はなかなかに仲がいいみたいですね。私から見てですが竜が人と契約するのは私と同じようにその人のことが大分気に入った証で、気がある……。こっちの男性もハチちゃんに惹かれているように見えますね」

「……」

「なるほど! ハチちゃんは私に劣るとはいえ多くの階層を任された竜。男性は強い存在に惹かれたんですね! 弱い人間なんかより竜と種を繁栄させたいなんてなかなか利口な男性じゃありませ――」



「――やだ」



 私の中で何かが爆ぜた。

 こんなの私らしくない、大人の女性らしくない。

 でもどうしようもないの。


「え?」

「やだ! 遥君が私以外の女性にだなんて……。私が弱いから、弱いからだっていうの!?」

「……ふふ、やっと素直になってくれましたね。可愛い……。そうです! あなたが弱いからこの男性はハチちゃんを選んだ! だったらどうすればいいか、分かりますよね?」



「――契約をお願い」



 火竜の口角が上がった。

 思うつぼなのでしょうけど、強くなれるなら私は……。


「では、その身体を私に預けてください」

「……分かったわ」


 身体の力を抜く。

 それを確認するように火竜は私の顔を撫でていく。


 そしてその手が唇に触れた時、一気に力が流れ込んでくるのを感じた。



 暗かった景色が晴れていく。

 元の世界に戻って来た。



「遥、君」



 近くまで寄って来ていた遥君とハチちゃんを見て呟く。


 すると、胸が高鳴り……私が強くなったことを人肌を通じて伝えたくなって、遥君の胸に飛び込みたくなる。

 まるで頭に靄が掛かったよう。思考がぼやける。


 こんなこと、初めて。



『これだから気の強い女性はいい。だって、こんなにも弱く脆くなってしまうのですから』



 脳内に語りかけてくる火竜。

 弱くて脆い? 私は強くなったんじゃな――



「――だ、れが……勝った、だって?」



 私の意思とは別に勝手に口が動いた。

 自由が利かない。


 これ私が……私じゃなくなって、いる?

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