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153話 笑い

「よし、動く」

「間に、合え……」



 完全に元に戻った身体で俺はあえて剣を顕現させないまま拳を振り上げた。


 赤は俺に気づいている。

 その上で技を繰り出すことをせず、透明の剣撃をあえて当たりにいっているとすら思える体勢を見せる。


 両手を広げ、尻尾を地面に垂らし、両足は大きく開かれ、剣撃はそれらの箇所に吸い込まれるよう放たれ、血飛沫が舞った。


 あまりにも不気味、さっきまで見えた再生のそれさえないのは不自然がすぎる。


 赤が何か口に出しているのだってわかっている。


 だけど、だからこそ1番早く不気味の原因を食い止めることのできるこの攻撃が最善。



 ……というのはあくまで2つ目の理由。こじつけ。



 俺がこうして殴りかかってるのはただ単に一発、俺の手で喰らわしてやりたいから。

 ここまでフラストレーションを溜め込まれたんだ、もう我満なんてしたくないし、できない。



「くっ……」



 血飛沫を浴びながら俺の左拳は赤の顔面前まで到達。


 思い切り振り抜こうとしたが、ここでついに赤は広げていた両腕を上げてこれを受け止めた。


 どうやら赤はその顔を攻撃されること、つまりは意識を飛ばされることを嫌がっているらしい。



 手応えは上々、赤の漏れる声に骨が折れる……とまではいかなかったようだが確かにダメージのある音が鳴った。



「――炎体……」

「遅い」



 流石に痛みが勝ったのか、赤はスキルを発動させようとする。

 その影響で赤の全身を赤色の靄が包まれ立ち上っていくが、俺の攻撃は止まらない。


 もう一度左拳で顔面を狙い、突き出す。

 それをまた受けるため赤は両腕に力を込めて、痛みを怖がり目を瞑る。


 それを見越していた俺は空けていた右拳をガードの下に潜らせ、思い切り振り抜く。



「え!? あ……」



 ――パキ。



 利き手でのアッパーが遮るものがなにもないまま赤の顎を捉えた。


 さっきよりも大きく鳴ったそれは、顎の骨が完全に砕けたことを告げる。



 そして靄が消え、赤の身体はゆっくりと倒れた。



『神測。火竜の身体……行動不可。再生の力は行使されていますが、スキル主による炎の抑制力を受けているためすぐに行動可能とはなりません。火竜の縄張りの解除、及び現在確認可能な契約が解除されました。……レベルが上がりました』



 勝利報告のアナウンス。

 苦しい戦いだったけど……。



「勝った、のか……」



 身体は再生されているはずなのに、勝手に膝から崩れ落ちてしまう。



「――遥様!!」



 地面に座り込んで天を見上げていると、いつもの元気で大きな声が聞こえてきた。


 まだ反動が残っているのか、ぎこちない走り方……だけどその顔はとびきりの笑顔で溢れている。



「ハチ……もう大丈夫なの――」

「勝った! 勝ったのね! 私たち!」



 大袈裟に飛び込んできたハチ。

 その勢いを殺しきれずに俺たちは地面に寝転がるように倒れた。


 ハチは過去に赤からひどい仕打ちを受けていた。


 だから仕返しができたことが嬉しいのは分かる。

 だけど、このままだと窒息してまた死んじまうって……。



「ハチ、苦しい……」

「あ、ごめんなさい!遥様!」



 慌てて退いてくれるハチ。

 色々と心配はあったけど、この様子ならもう大丈夫そうか。


 となればまずは……。



「こいつの拘束、の前に……陽葵さん! 大丈夫ですか! 俺たち、勝ちましたよ!」



 できるだけ大きな声で俺は陽葵さんに呼び掛けた。


 陽葵さんも再生の効果でよくなっているはずだし、心配しすぎるのはよくないかもしれないけど。


 やっぱり心配なものは心配。

 ついつい声も大きくなってしまう。



「遥、君……」

「良かった! 赤、火竜はしばらく動かないみたいなのであとは拘束は俺たちに任せて少し休んでいてくださ――」




「――だ、れが……勝った、だって?」




 顔を上げた陽葵さんに報告と提案、それをしている途中、陽葵さんの目は赤く染まり、その口は不敵に笑った。

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