151話 回数上限
赤は顔を真っ赤にすると雑に腕を振り上げて攻撃を仕掛けてきた。
どうやら俺は地雷を踏み抜いたらしい。
怒りと恥ずかしさに身を任せたそれは一見可愛らしく映るが、振りの速さと威力はまったく可愛くない。
俺の頭の中で常に神測のアナウンスが警鐘を鳴らし、回避先を教えてくれたこともあって回避こそできるものの、赤が空振った先の地面にはクレーターができ、その威力を物語っているのだ。
アナウンス曰く今であればこれを受けても再生力が上回るらしいが……。
こんなの絶対にもらいたくないって。
「悪いけど、その腕は落とさせてもらうな」
「部位……炎体」
間違いなく腕は斬った。
だが、すんでのところで赤の腕が炎へと変わり、その感触は情けないものになってしまった。
俺の攻撃が自身の防御力を超えていると認識しての判断。
見た目以上に赤は冷静さを失っていないらしい。
「こっちの身体であれば器用な戦闘も可能。あなた程度の剣技は私には効きません」
「そうかもしれない。でも反撃できないのはそれだけ必死だからじゃないのか?」
「……。どこまでも憎たらしいのですか、あなたという人間は」
互いに嫌みったらしい言葉をかわす。
そして、間をおくことなく俺は剣を赤は拳を振りかざした。
ぶつかる剣と拳。
威力でいえば赤のほうが上でやや押し負ける。
だが、水の剣の切れ味によって拳には切り傷が刻まれていく。
『――コンボ回数増。威力上昇』
そうなると痛みを感じた赤は再び身体を炎に化かして引く。
こうして俺はアナウンスを聞きながら絶え間ない攻防に身を投じる。
「――はぁはあはぁ……」
そしてしばらく、赤が息を乱し始めた。
これは状況として俺のほうが有利。
そう勝機が頭をよぎった時……。
「――うっ……」
急に俺の脚が止まった。
痛みはない。ただ思い通りに動いてくれない。
「こ、れは……」
声は出る、だけどままならない。
「はぁはぁ、ふふ、あはは! 強い衝撃を何度も何度も受けて脳がダメージを負った! きっとそうですよ! ……さて、まずはどうしてあげましょうか」
赤は嬉しそうに俺に近づく。
俺はそれを払い除けようと精一杯剣を振るおうとするが、これもろくに動かない。
――ばしゃ。
「……これであなたは私を直接斬れない。それにこうしていれば水の力をある程度抑えられるはず。実は私にも水の抑制についてのアナウンスが今あったんです。ハチちゃんが炎を抑制できて私に水を抑制できないなんてことはあってはいけないわけですから、これは当然のことですよね」
赤が俺の手に触れただけで水の剣は地面に落ちた。
必死に手首だけを動かしてそんな赤の手を払い除けようとしたものの、動いたのは少しだけ。
小さくパンッ、と音はなったが手は握られたまま。
しかも赤はやはり剣を使わなければダメージがないようで、涼しい顔をしている。
こいつの、この顔を殴る。
もしそれが達成できてもダメージを与えられないなら意味がない。
『――コンボ回数増。威力上昇』
俺が手を叩いたからか、同様のアナウンスが流れた。
一気にレベルを上げるのは無理かもしれないけど、もしかしたら……。
「コンボ……それって、まだ、限界じゃな、い?」
たどたどしい発音で聞く。
すると赤はそんな俺の声を聞いて嬉しくなったのか、笑いながら俺の顔を覗いてきた。
「コン、ボ……?何を言っているのですか?ふふ……もしかしてこうして触れたことでおかしくなってしまったので――」
『――上限なしです。しかし、スキル主の願いに沿うためにはまだヒット数が足りません。レベルアップ時に強化されたスキル、これによりヒット数を稼ぐことが可能だと思いますが……行使、また行使可能な状態にしますか?』
アナウンスの回答と質問が赤の声に被った。
俺はその二つを聞き、まずは2つの疑問に答える。
「は、い」
「……あはははは!潔いですが、みっともない返事です――」
「だって俺、は、このままでも……まだまだ、おかしいくらい、強くなれる、みたいだから」
そして次に俺は赤だけに煽り、ではなく返答をしてやるのだった。