149話 2
『――炎の剣によるダメージ、及び経験値の持続取得……達成。次の行動を指示します』
手が焼ける、治る、痛みが走る、一気に引く。
常につきまとうそれだが、一秒また一秒と時間が経過するにつれ俺は慣れを感じ始める。
そうして苛立っている様子の火竜が何か仕掛けようとしているのか、右脚を少しだけ引きずるように押し出すと頭の中にアナウンスが流れた。
そう、経験値の持続取得という通常あり得ない状態になっても俺はレベルアップできていないのだからここでアナウンスが終わるはずがないのだ。
『――炎の剣による効果で経験値を取得します。先ほどの攻防で火竜(仮称)の接近の確率が高まっており、現在見せている所作からもその可能性は高い……であればカウンターを狙います。その威力を少しでも高めるためまずは……やや左に走ってください。そして視界の左から襲ってくる火竜の攻撃に対して左後ろに、倒れるように身を引いてください。早めでも構いません』
「了解」
アナウンスに誰にも聞こえないような声の大きさで返事をすると、俺は早速やや左寄りから火竜の目掛けて駆ける。
もう躊躇はない。なぜなら一連の指示が最適解だということを目の当たりにしたから。
痛みはあれど不安はない。
吹っ切れたからなのかどこか身体が軽い。
「はっ、脚が勝手に動いてるみたいだ――」
「――私の炎を操って、飼って……あなた、今私を笑いましたね?」
駆け出した俺に合わせて火竜は案の定接近。
右足で地面を蹴り、俺の進路に合わせて右手を振り上げた。
こうしてアナウンスが言った通り攻撃が視界の左から襲ってくる。
神測を使ったからとはいえ、ここまで看破機に行動を読むとかもうエスパーとかの域なんじゃないか?
『――右足を前に出す。これにより火竜が右利きであることがほぼ判明しました。さらに右手で攻撃をしやすい状況を作ればこうなる可能性は高い。敵の情報を知り、戦闘を用いて情報を確実なものにする。こうして情報の補完をすることができました』
「な!?」
「お前の所作から神測した……らしいぞ」
流れるアナウンスと共に俺は体を左後ろ側に倒す。
するとあまりのスピードが影響したこと、俺が思いがけず完璧な回避行動をとったことで火竜は攻撃方法、攻撃箇所を変更することができず空振った。
『――そのまま炎の剣を振り上げてください』
そして俺は素っ頓狂な声を上げる火竜と外れた攻撃を横目に、大きく攻撃を仕掛けるということはせずにただただ炎の剣を振り上げた。
硬い鱗に当たる炎の剣。
だがやはりダメージはない。
それどころか炎の剣は軋み……。
――パキ。
折れた。スキル名からして完璧なものじゃないとは思っていたが……アナウンスさん、これでも大丈夫なんだよな。
「あ、ははっ!! 馬鹿な人間――」
――ボコ。
折れた炎の剣を視認して噴き出す火竜。
しかし次の瞬間炎の剣は鱗に飲まれ……不気味な音とともにその体積を急激に増幅させ始めたのだ。
――バンッ!!!
それから一秒もたたずに鱗は破裂。
火竜の素肌が見え、また鱗の破片がそこに刺さった。
「はは……自分の炎でなんて無様だな――」
「この程度で……いい気にならないで、なるんじゃねえ!!」
その光景に笑ってみせると火竜は大声で、今まで使ってこなかった口調で激昂。
鱗が散った腕で俺を身体ごと振り払った。
「……。自分自身がこの姿になるのは面倒ですし、抵抗があるのですが……その手、いや指まで。身体の隅々まで痛めつけて遊ぶためには仕方ありませんね」
吹き飛ばされ壁に激突。
そんな俺に向かって火竜は奥の手でも持っているような発言を繰り出す。
だが、今よりも強く変化できるのは俺も同じ。
『――数段格上のモンスターにダメージを負わせたことを確認しました。レベルが2週目のレベル2……9999⊆2に上がりました』




