148話 出来損ない
「? 威勢のわりに掛かってこないんですね。さっきの戦いでも逃げ腰でしたし、口先だけの男は好かれませんよ」
『――戦闘中の条件達成による経験値取得、レベルアップは継続中。しかしレベルアップに必要な経験値は通常と比べ膨大です。そのため最短でレベルアップ可能なルートを神測……完了。軽度な条件を削除、代わりにより難易度が高く、経験値取得量の多い条件が顕現しました。まずは新たに顕現された条件であ?一定の被ダメージによる経験値取得を行い、敵に接近することをおすすめします』
「被ダメージ……それだとさっきみたいになるんじゃ」
「ぶつぶつぶつぶつ一人言……そういうところも好みじゃないですね!」
俺が引き続き流れる神測によるアナウンスに耳を傾けていると、火竜はその頬を膨らませ始めた。
おそらく竜といえばといったように、炎を吐き出すのだろう。
避けるか、それともアナウンスに従うか……。
「かっ!!」
――ずぉっ!
流石にわざとダメージを負うことに躊躇いを感じていると、火竜は大して時間をかけないまま炎を吐き出した。
それはさっきまでとは異なる範囲、勢い。
何かを仕掛けるためではなく、一撃で焼き殺そうという強い意思を感じる攻撃。
上にも横にも広いため避けるのは不可能そうだ。
というかそもそもこの威力だと倒れているハチも危ないか。
『――不安解消のためまず質問への回答から。……。再生力の効果を高めた新たな身体であればこのまま攻撃を受け止めることが可能です。死亡はしません。では次にスキル主の意向を受け止めたため、こちらで神測した最短ルートをお伝え、指示します。まずは前方に手をかざし、【剣生成(未熟)】を発動。……全力で走ってください。これにより仲間の危険も回避可能です』
こいつ……簡単に言ってくれるよ。あれに突っ込めとか、あんなに苦しめられたあとなんだぞ……。
ってもう躊躇ってる場合じゃない!
「う、ぅうああああああああああ!! 『剣……生成』!!」
勇気を振り絞って走る。
情けない叫び声がフロア内に響く。
手は熱く、身体に炎が纏わりつこうとする。
全身を燃やされる、その恐怖から瞼が閉じてしまう。
「いい叫び声! ほんのちょっと好きになっちゃうかもしれませ……え?」
「ん?」
だけど熱いのはいつまで経っても手だけ。
しかも耐えられないような熱さは襲ってこない。
これは超身体強化によるものじゃない。
これは……。
「私の炎が消えていく? 吸い込まれた? ……いや、これは圧縮されている? あなたが、あなたなんかが、私の炎を飼おうとでも?」
瞼を開く。
するとさっきまでよりも起こった様子の火竜、そして俺の手には不自然にへばりつく炎の塊が1つ。
塊は俺が視認したことがきっかけになったのかふよふよと形を変え、細く長く伸びる。
『――継続時間短。永久変化ではありません。またスキル主が【握れる】よう燃やす対象が変わっていますが、これも継続時間は短いです』
握れる、その言葉通り塊だったこれは火傷するぎりぎりの熱さを保ちながら心地よく俺の手に収まったのだ。
「……ハチの水の剣に比べて歪だな。炎の剣ってやつは。それに……」
『――敵の炎、及び炎の剣による継続ダメージによる経験値取得を確認しました』
「飼い主の手を噛むなんて、とんだ出来損ないの剣だよ」




