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146話 血雫

声とともに上空が激しい光で白む。


 火竜はその光によって目を細めるが、俺は傍観者という状態によりまったく眩しくない。


 だからその小さな盃と、それを持つ全身に血管を浮き上がらせ苦しむハチが俺の目にはくっきりと映る。


 光を放っているのは宙に浮く盃。

 そしてその盃には荘厳な雰囲気を発しながら血が注がれていく。


 この血は盃を持つハチによるもの。

 引っ掻けた指の先から血は絞られ、その度にハチの全身が収縮と膨張を繰り返す。


 身体の負担は聞かずとも相当なものだとわかる。



 ――すぅ……。



 そうしてすりきり一杯をやや通り越して注がれた血は盃から一滴だけ溢れる。


 これは盃の効果なのか、その血は次第に透明になり一見普通の雫石のような姿となる。


 だが、それを見るとこんな状態の俺ですらそれを欲し飲みたくなってしまうほどの渇きに苛まれる。


 例えるなら砂漠で極限状態の中、ボトルをひっくり返した時落ちそうになる一滴を舌で受けとめたくなるような、それほどまでの渇き。



「くっ……。こんな、私があの子なんかに踊らせられそうに……」



 火竜もこれを感じたのか視線がハチから逸らせないようだ。

 それでも俺を焼くことを止めないのは流石に同格、いやそれ以上の竜といったところ。


 しかし、永遠宙を舞う火の粉や俺を包む炎、それとは別に共に背中に宿る炎はその限りじゃない。


 炎は俺たちのように命があるわけじゃないというのに、血の雫石を求めて流動。


 火竜が体内にそれらを戻そうと大きく息を吸うが止まらない、それどころか勢いは増すばかり。



 ――じゅ……。



 瞬く間に炎と雫が触れ、蒸気が伝播。


 すると途端にそれらは萎んでしまった。

 小さかった火の粉以外は完全に消えたわけじゃない。だけどその効果、威力は小さくなり再びアナウンスが聞こえ始める。



『――死亡回数1000オーバー。状況の好転により身体の作り替えに成功。再生効果がダメージをやや上回りました。死亡回数、ダメージ量によるレベルアップが上限レベルの9999に到達。それでも対応可能な能力とは判断できなかったため、【2週目】が可能な身体に作り変わりスタート。初撃をヒットさせることで経験値の取得が可能。そのための初期ステータス、またその後の戦闘を考慮した上昇値を得られます。傍観者を解除します』



 作り変わりは成功。

 ここから反撃……したいところだが再生は炎をやや上回った程度。


 こんなところで戻されたところで地獄のような熱さを受けることに変わりはない。


 少しだけ動けはするものの、これじゃあ戦うどころか逃げることも話すことも難しい。



「……逃がさない。あの子もあなたも!」



 火竜の顔に怒りが戻る。

 小さくなった炎も戻ろうとする。


 火の粉もそのうち俺たちを囲うだろう。


 このままだと折角ハチが作ってくれたチャンスが無駄に……。



「誘惑の居合い(デコイクイックドロー)。それとお願い、ちょっとでいいから……効いて」



 火竜の背後、俺の視線の先にいたのは陽葵さんだった。


 これまでにみたことのない速度で走りくる陽葵さんはその腰に剣を提げ、そして振り向く火竜とその視線をぶつける。



魅了(チャーム)



 呟く陽葵さんの瞳はやや赤く、怪しく光りながらも、慎二とは違う力強さを放っていた。

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