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142話 猛攻

『――致命傷を確認。契約による再生効果が最大速度で発揮されま――』



 俺がダメージを負ったことでハチの驚異的な再生力が俺にも反映される。


 アナウンス通り痛みはだんだんと引く。


 しかし、火竜の両手を組んだ攻撃の重さは増加。

 物理攻撃はインパクトの瞬間にその威力を発揮するが、こいつの攻撃はややねちっこく持続する。


 よく見ればその両手にも炎が薄っすらと纏い、徐々に消えている。

 どうやら腕の振り下ろしもブースター的に勢いを足しているのだろう。



「っつ。ご、多重乗斬ごうとえっじ



 最悪の状況を乗り切るために俺は出し惜しみすることなくスキルを発動させた。


 ハチの補助がないからこの剣撃は36に留まってしまうが、それでも魔法の使えない状態の今の俺にとっての最大火力。


 これが通用しないとなればまた死を覚悟しなければいけない……。




 ――ポタ。




「え!?」

「よ、よし! 多重乗斬――」



 生み出した36の攻撃手、36の刃を手首に火竜の手首に集中。


 その鱗は想像よりも遙かに硬く、切り落とすどころか刃を肉まで届かすので精一杯。


 だが、届いた。

 手ごたえはなく、見た目としても大した傷じゃない。


 だけど血は滴り、火竜の情けない声が聞こえたのだ。



 火竜の緩む攻撃。

 これを見て俺は受け身の状態から抜け出し、もう一度攻撃を仕掛けようとした。


 攻撃は最大の防御。

 これだけ驚き、止まってくれるなら追撃しない手はない。



「……」



 今度は火竜の視界を奪うように攻撃手を顕現。

 ハチによって作られた剣さえも見事に再現されたそれが火竜を襲う。



『残り5秒』



 そうしている間にカウントは残り5秒。


 対応レベルまでの補完作業を含めてもこれなら余裕――。



 ――バンッ。



「……」

「なっ!?」



 何も発しなくなった火竜は翼を今までよりも強くはためかせた。


 すると爆炎が巻き上がり、辺りを包んでいた火の粉が火竜に降り注いだ。



 ――ぱ、き。



 神々しくさえ思ってしまう煌びやかなその姿を拝んでから1秒も経ってはいない。


 だけど俺の腹には強烈な痛みが走っていた。


 おそらく火竜の拳、いや指が腹を『掠めた』のだろう。



 ……つまりは、だ。今の一瞬俺はなにがどこに当たったのかさえも分からなかったのだ。



「……」

「ぐっ! あっ! う――」



 ――パキ、ボキ、パキ、ドスッ……



 俺が声を上げるよりも早く体の至る所が悲鳴を上げる。

 もう痛みを感じる暇すらない。


 死を恐れることさえさせてくれない。



『残り1秒』

「も、少し――」



 殴られ、その角によって体を貫かれた回数が把握することも困難になった時、全身に炎のロケットブースターを積んだ火竜の攻撃がぼんやりと映る。


 一思いに殺してくれればいいものの、そうしないのは俺がこいつを怒らせたからであろう。


 恐怖が全身を包み、これ以上意識を保っていたくないと体がサインを送り始めた頃、アナウンスが伝えてくれたのは嬉しい知らせ。



 火竜のサディスティックな性格がこんな事態に陥っても俺に希望を抱かせたのだ。



『0』



 ――ドス。……ボウッ。



 カウントが終わった。

 同時に俺の左胸に何かが刺さったのを感じた。


 これは、火竜の爪?


 それに身体が熱く……俺、燃えているのか?



『再生が間に合いません。レベル、ステータスの補完のために必要な攻撃が現状不可能。また可能になってもこの身体では10000レベルに対応するのは困難。……代替の補完方法を神測。新たに作り替え、試行する必要があります。スキル使用者の状態を考慮し、これに自動切換え。精神の肉体定着保留。一時的に傍観者とします。死亡回数1……試行失敗』



 淡々と繰り返されるアナウンス、消えない炎。

 喋ることも動くこともできない。

 

 それでもスキルの効果によるものなのだろう、この状況を理解することができる。

 それにまるで空中に自分の眼があるみたいに映像を見ることができる。



 そうして映ったのは俺を包む炎。



 そしてそれを嬉しそうに楽しそうに、何かを発散させるように炎を継ぎ足す火竜。



 そういえば、こいつの炎は一生燃え続けさせることもできるんだったか……。

 詰んだ……か。



「――め、滅級魔法:神盃の一滴」



 何もできず、ただひたすらにその光景を眺めていた。

 そんな時間が何秒、いや何分か経ったときだろうか、『あいつ』らしくない絞り出すような声が微かに聞こえたのだった。

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