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139話 捕食

両手で思い切り振り下ろした剣とそれを真っ向から受けるマザーウルフ。


 なにかあると思って通常のマザーウルフよりも硬いことを想定しての攻撃だったが、剣はその首部分を簡単に切り裂いてしまった。


 圧倒的と言える状況。

 だけど火竜にはまるで反応がなかった。



「――しかも、感触が……ない」



 豆腐を切った、いいや、ただ素ぶりをしたかのようなそんな手応え。


 俺はそれを不審に思い、急いで振り返る。



「これは……。火竜、こいつの強さは再生力とそれを相手に付与させること。傷ついた仲間を回復するような献身的使い方だってできるはずなのに……むごいな」



 俺の視線の先には血が流れることなどなく、切り口からメラメラと燃える炎によって首と胴体が繋がりもとに戻っていくマザーウルフの姿があった。


 声は出ていないがその顔は悲痛に悶え苦しんでいる。

 おそらく痛みはあるのだろう。


 でも死ねない、火竜がそれを望まない限りずっと……。



 ――すっ……。



 マザーウルフに憐れみの感情を抱いていると、火竜がその頭を優しくなでた。

 飼っている、ということはこんなむごいことをしていても多少の愛情はあるのだろうか?



「ふふ……」

「!?」



 笑い声が漏れると同時に火竜の少し短めの手の先にある鋭い爪がマザーウルフの腹を切り裂いた。

 すると俺が剣で斬ったときとは比べ物にならない苦悶の表情をマザーウルフは浮かべた。


 血も出ているところをみると、マザーウルフの『これ』を成立させるために一瞬通常の肉体に戻しているのだろう。



「わ、おん……」



 マザーウルフの腹からこぼれた2匹の狼型のモンスター。

 ジェネラル・ミノタイタンのモンスターを生み出す力、それを手放しても問題ないと判断したのはこのマザーウルフの繁殖スキルのためか。



「お、ぐ……。ふぅ。はい、ご苦労様。っというわけで、あなたが連れて来たこの子がいるから一応食料には困らないんですが……。あなたもこうなりたいですか?」



 苦しむマザーウルフを再生させつつ、飲み込むことでまた腹の中に戻した火竜。


 そしてその手で生み出されたばかりのモンスターを握り上げ、それを食べながらジェネラル・ミノタイタンの返答を待つ。

 その顔は実に楽しそうで、無邪気。



「イ、ヤ……。イヤ、だッ!!」

「げふぅ……。ですよね。では、急いで調理して上げます」



 満足そうにモンスター2匹を喰い終わった火竜は細く長いゲップを口押さえながら済ますと、その指を鳴らす。



「アっ……」



 次の瞬間ジェネラル・ミノタイタンの身体が赤く染まり、口から煙が立ち上り始めた。


 辺りに散っていた火の粉がジェネラル・ミノタイタンの身体の中で変化。

 火の粉は飲み込まれただけで消えることなく膨れ上がってしまったらしい。



「ゴ、ア……。ヤッパリオレ、モ……。ヤクニタツカラ、カッテ――」

「ごめんなさい。もう決まっちゃったことなんです。それにさっきも言ったんですけど、あなたの力の代わりはいるんですよ。そう、あなたの連れてきたわんちゃんが」

「ア、アアァ……」



 数秒のやり取りの後、ジェネラル・ミノタイタンは沈黙。


 火竜はというとそれを食べるためにめんどくさそうにのっそりと移動。



 その姿、表情からは禍々しいそれは感じられなかったが、強者の余裕が十分に感じられ、俺に攻撃することをためらわせていた。



 俺はハチのお蔭でこいつに殺されることはおそらくない。

 だが、死ぬ以上の苦しみを負わせることができる。



「ん、ぐ……。それでふぁひょろひょろあひゃたたちもあひょんであげま……ひょうか」



 丁寧な口調とは反対にだらしなく口にジェネラル・ミノタイタンを含みながら話す火竜。



「――神、測」



 その姿に委縮しながらも俺は今もなお背後で戦ってくれているハチと陽葵さんの気持ちを思い、スキルを発動させた。

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