表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/405

137話 覚え

 ――じゅる。



「ぐ、おお……。ぶもおあおっ!!」



 背後から聞こえたのは火竜の舌舐めずり音。

 俺の眼力に慄いたわけではなく、あくまでジェネラル・ミノタイタンは自身が補食されることを想像したのだろう、指揮を取りつつも前進していた足を止めた。


 そうしてその場に立ちつくしたままでいてくれたのであれば俺も楽に倒すことができたのだが、ジェネラル・ミノタイタンが次にとった行動は天を仰ぎながらの咆哮。


 これは恐らく自身、さらには他のモンスターを鼓舞するため……だけじゃない。



「――範囲強化、か?」

「う、ぎ……」



 少し遅れてジェネラル・ミノタイタンの様子を伺っていた俺の元に残りのモンスター、単眼のトロルたちがようやく到着。


 その目は赤く充血し、筋肉は何本もの血管を浮かび上がらせながら隆起している。

 通常時をあまり知らないモンスターだが、これは明らかに異常。



 攻撃力、戦闘意欲のバフというところか?


 とにかくこのスキルが火竜や陽葵さん側のモンスターたちにも影響を及ぼす可能性を考えれば、気になるからって観察している場合じゃない。


 そうと決まれば神測を使うよりも先に奥のジェネラルを殺――



 ――ばん!



 さっきぶりの破裂音。

 しかし今回はさっきよりも近い場所で鳴ったからか、耳の奥まで衝撃を浴びたような感覚が襲った。


 でも今はそれが気にならない。


 なぜなら思いがけない事態が俺の眼前に広がり、今まさに弾けとんだ単眼のトロルの中から現れた『モンスター』、ナーガの尻尾が避けられないところまで迫っていたから。



「ヤバ――」

「だから、あなたの相手は私よ」



 咄嗟に持っていた剣を顔の前まで移動させようとしていると、俺とナーガの間に俺ではない剣が割り込む。


 ナーガの尻尾はかなり硬かったのだろう。

 剣とぶつかったことで部屋中に金属音が鳴り響き、若干の火花が見えた。


 それはいつの間にかこちらまで駆け寄っていた陽葵さんを鮮やかに照らして……こんな時だってのに俺の心を奪おうとする。



「作戦は続行! 私は『私の分の敵』を殲滅するわ! 遥君はあいつを追って!」

「陽葵さん……でもこの数は――」

「いいから行って! 行きなさい! 私、もう止めようなんて思わないから!」

「……分かりました」



 俺が倒したモンスターたち、それと話から察するにこちら側に移動してきた陽葵さんが相手をしていたモンスターたちがあの単眼のトロルを通じて移動をしてきた。


 これがさっきの咆哮による影響、スキルによる効果の『1つ』。



 ――パンッ! パンッ!



「遥様! 今のうちに! なんでか分からないけど、あいつがまだこっちに手を出してこないのはチャンスよ!」

「ハチ! 助かる!」



 そしてもう1つはハチが水の弾丸を発射し続けてもすぐには消えてくれない新たなモンスターたちの召喚。


 モンスターを生み出すスキル。

 しかも仲間の移動まで可能。これってなんだか覚えが……。



「――タ、スケテ。セッカク、ツヨク……ナッタノニ。イヤダ。イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ、イヤダアアアアアアアアアア!!」



 ハチと陽葵さんが作ってくれた道を進みながら、記憶を探ろうとしたその時。


 ジェネラル・ミノタイタンがその見た目に似つかわしくない、情けない人間の言葉を発しながら後退りを始めたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ