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131話 振り返れ

あえて飄々と10カウントを数え、でもその裏では慎二とサラマンダーによる火属性の神話級魔法が放たれ……俺はそれを受け止めていた。 


 万が一にも陽葵さんへ攻撃が届かないようにするため、そして最速で最大限レベルアップを重ねるにはこれが効率的。


 とはいえ熱いは熱いし、痛いは痛いけど。


 特にサラマンダーは慎二にあれだけの力を貸すことのできる存在ということもあってその魔法の威力は慎二の放つそれよりも遥かに強力。


 さっきと同程度の力の魔法じゃ突破は難しい。


 両者からの攻撃で順調にレベルは上がっているけど……これ、10カウントは流石にカッコつけすぎたかも。


 現状2つの魔法に挟まれて片手ずつ魔法を受け止めているけど、両手はサラマンダーの魔法に集中。


 慎二の魔法には……あえてノーガード。


『――レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが……』


 思惑通り高速で伝達されるレベルアップ。


 背中が燃える感覚はある。熱さを通り越して痛みが襲う。


 それでも耐えられるのは微かに感じるハチとの契約による再生力が大きい。


 死んでも死なない。

 その安心感があればこれくらいの無茶はどうとでもなるもんだ。


『レベルが上がりました』


 そして無限にも感じる10カウントが終わりに近づいた時、俺は魔法陣を展開。


 その魔法は勿論『尖水・超圧縮弾』。


 ただレベルが上がり魔法攻撃力も上がったお陰で、それはさっきまでと同じものとは思えない見た目に。


「ぐ、あ?」


 サラマンダーの吐き出す魔法をかき消しながら進むそれはカウントが0になると同時にサラマンダーの身体をもうねらせ、弾け飛ばした。


 一撃。この瞬間、着弾のときだけを見た人にとっては呆気なく感じる結末。


 しかしこの一撃を捻り出すまでに自分が負ったダメージは想像以上。


 慎二の魔法はサラマンダーほどじゃないとはいえ、神話級。

 まともに喰らい続けた俺にはもうさまざまな感覚があまり残っていない。


 それでも視覚は生きている。

 少し先に陽葵さんが見える。


 俺の指示通り突っ込んできてくれたんだろう。


 ただ思ったより遠い。


 サラマンダーと慎二の契約が消え、その本人が戸惑い、さらにはこれまでの戦闘で焦っている今が絶好のチャンスなのに。


 ……。あと少し、少しでいいから絶対に陽葵さんが魅了されないよう、その到着を悟られないよう、なんとか距離を……。


 そうだ。絶望的な状況だった慎二なら、奴ならきっとボロボロのこの顔、身体、動き、それらを見て逆転を信じて自分から盲目的に近づく。


 そうすれば焦りや戸惑いとの高低差から大きな油断が生まれてチャンスは続行。


 振り返れ。


 できるだけ悲壮感を漂わせて奴を誘き寄せろ。


 それだけ、もうそれだけでいい。


「契約が切れて……。死んだ? 竜が? でも、でもでもでも……勝った?」


 ついに言葉を発し始めた慎二は俺だけをじっと見つめると無言になり……案の定その脚を前に運び出した。


 そして俺もそれに合わせてできるだけとぼとぼと歩く。

 まるで戦いたいのに戦えないといった風に両手を振りかざそうとするフリをして。


 そうして俺たちははっきりとお互いの顔が見える位置で止まった。


 少しして覗き込むように顔を近づけると嬉しそうに笑う慎二。

 でも本当に笑いたいのは俺の方なんだけどな。


 だってもう、『その気配』を間近に感じることができるから。


「勝った、勝った勝った――」


「油断して、その顔を近づけて、くる……。はは……。神測も、いらない。その行動を、読むのは」


「負け惜しみを――」


 この戦いでの俺の役目はここまで。


 我慢しきれず慎二を笑うと、俺は安心して地面に倒れ込んだ。


 すると背後からやってきた陽葵さんと勝手に入れ替わることができ、俺は最高の場所で最高のやり返しを見物することにした。


「――模倣:劣化版魅了」

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