129話 聞こえますか
「やっと効果が出てきたか」
「なんで……。なんで、なんで、なんでなんでなんでなんで! く、あああっ! はっ、はっ、うぅ……。動けよ、動けっ! 避けなきゃ、避けな――」
スキル弱体効果による再生力の低下、それがここにきて表層に大きく浮き出始めた。
そのことに焦る慎二。
必死に変化、更には強化されたその腕を振るが、俺の身体に触れる度それは勢いを失う。
そして自分の意思とは裏腹に腕は動かすことができなくなる。
丸腰。無防備。隙だらけ。
俺は躊躇することなくそんな慎二を殴り続ける。
腫れて膨れる顔面、折れる骨、吐血。
とうとう慎二は喋ることもできなくなる。
勝負は決した。あとは契約を解除させて……気絶させてやるだけ。
「慎二、これ以上意識を保ってるのはしんどいだろ? 契約を解除してもう楽になれよ」
「……。誰、が……。お前の、言う通りに、なんか――」
倒れた慎二の腹を蹴り飛ばす。
こうでもしないとこいつは分からないだろうから。
「……。実は俺はお前を殴る度レベルが上がる。そういうスキルの効果を受けている。さらにお前の再生力を攻撃する度弱体化することもできる。勝算はもう0なんだよ。諦めろ」
「いや、だ……」
「そう言うと思った。だけど知っての通り俺も諦めが悪いんだ。だからお前がいうことを聞くまで……攻撃を続ける」
「ぐっ! ああっ!!」
死なないように様子を見ながら攻撃。
慎二の目には悔しさからか涙が溜まっていく。
「う、ううううう……。嫌だ。嫌だ嫌だ。俺は、俺は、負けたく……ない。並木遥には、絶対。ここまで、したのに……。俺は……負けたままでいたくないっ!! ……。『この世界』では俺はっ!」
「慎二……」
情けなく涙を流す慎二だが、そのプライドの高さだけで立ち上がって拳を振り上げた。
対して俺はそんな慎二との間合いを詰めていき、強く拳を握った。
すると……。
「――くああああああああああっ! え? こ、これは? あははははははっ! ついてる! 俺は、まだやれる!」
拳が交差した瞬間だった。
慎二の全身に火が灯り、なかなか治らずにいた傷が完全に塞がったのだ。
しかも筋肉は隆起。明らかなパワーアップが見受けられる。
契約の効果が増した? いや、それ以外のなにかか? でもそんな強化に意味はない。
なぜなら俺は中途半端に強くなろうともあっという間にそれを追い越して強なれるのだから。
「おら! 痛いだろ! これは!」
「ああ。痛い。だが致命傷じゃなければ……問題はない。説明しただろ俺は殴られる度、殴る度、レベルが上がる。その強さの差を埋めて超えるために。さっきまでの成長だけでのびしろはなくならないんだ」
「追いつけないっていうのか? 俺は、俺は今後、一生っ!」
『レベルアップしました。これは階層内に存在する最も強いモンスターの対応適正レベルを計測測定した上で補完しようとした結果と――』
――バキ。
あばら骨の折れる音。
『レベルが上がりました』
――ポト。
折れた歯の落ちた音。
『レベルが上がりました』
――ビチャ。
慎二の吐血で地面が汚れる音。
『レベルが上がりました』
「はぁはぁはぁ……。お前、どうして! どうしてまたお前だけ強くなるんだ! あ、スキルは消えてるじゃないか! さっさと加勢しろこの駄竜! 挟み込んで焼き殺すぞ!」
ボロボロの慎二はついに後ずさりを始めた。
そして息を切らしながらあることに気づいた。
それは俺のスキルが消え、契約しているサラマンダーが手空きになっていること。
影からダミーを作っている様子から、おそらくはハチと陽葵さんと交戦中なのだろう。
慎二と同じく強化されているのかその見た目にやはり変化が見える。
でもそれに恐怖はない。むしろ攻撃対象を俺にしてくれたことに感謝すら覚えている。
それは陽葵さんが相手をするには火力が不十分に思えるから、そして慎二を殴ることで頭がいっぱいだった俺に冷静さを取り戻してくれたから。
適材適所。
これだけ取り乱した慎二なら、陽葵さんの『あれ』が効く。
『陽葵さん、聞こえますか?』
『遥君! 聞いて! その火竜は強化されて――』
『知ってます。でも問題ないです。それより、こっちに向かってきてください。それで陽葵さんも慎二にやり返してあげてください』
『それって……』
『一応反撃が怖いのでこの後、ダミーが消えて、慎二に隙が生まれる、そのタイミングで突っ込んできてください。30秒、いや、あと10秒でダミーを消します。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0っ!』




