126話 【陽葵視点】 強敵過ぎる
「……。いいのかしら? 遥君は強いわよ」
「んー、確かに強いと思います。でも遥という方と戦っているあの人間も強いと思いますよ。顔から恨み妬み怒り、とにかくやってやるぞ!って気合いを感じます。逃げ腰じゃないっていうのは勝負において重要なことです。臆病のままじゃ臆病なりの結果、生活しか得られないってそう思います。あなたもそう思いますよね、オロチさん」
「わ、私は私で上での暮らしには満足していたわ。確かに食べ物とか、色々工夫はしていたけど……」
「へぇ。縄張り争いの時とは大分顔の感じが違いますね。それに、私と向かい合ってそんなに喋ってるところ……初めて見ました」
瞳だけでもなんとなく意地悪に笑っているのが分かる。
それにハチさんがいっぱいいっぱいになっているのも。
「――ぐ、ああああああああ! も、もう、これ以上は……」
「あ、ご褒美が良すぎたみたいですね。嬉しくて失神してしまったみたいです。このまま意識が戻らないとスキルの効果が消えちゃいそうですね。んー、魔力が勿体ないので一端炎は消しておきましょうか」
「地味だけど恐ろしい魔法ね……。こんな神話級があるだなんて」
「あれあれ?そちらの女性さん、もしかして興味を持ってくれました?私を眼前に堂々としているし、魔法に対してもいい反応。もし勝負に勝ったらその方と同様に――」
「ならない。あなたみたいなサディストの元には下らない。多分だけどあなたは慎二たちにあっちの竜を接触させて、あれに犯されていくのを楽しんでいたでしょ?それにこの男をお気に入りとか言っていたけど、スキルでその動向を確認する道具にしていただけ。本当に大切ならそんなに楽し気な声にはならないもの」
「……。道具、言われてみるとそうですね。でも大切にしてないわけではないですよ。だってこの方は大事な道具なんですもの」
「私、あなたが好きじゃないわ」
「私は好きですよ。好きになりました。だって私より私のこと理解してくれているみたいですから。うふふ。勝負、私が勝った時のご褒美はあなたでお願いしますね」
「……絶対に負けないから」
「楽しみにしています。それじゃあえっと縄張りの効果で道を防いで、あの人間と竜を強化……あ、再生力は程々にしますね。やりすぎるとゲームがつまらなくなりますから。さて、邪魔になるかもですから音のワープは中止にして……。眼も場所を移しますね。うふふ……。必死にもがいてもがいてもがいて喘いで血を流して……あー! 楽しみですね!」
火竜の瞳が天井近くまで登っていく。
ワープのスキルは使用者の使い方次第では対象にワープ場所の指定やキャンセルができるらしい。
まぁそれが分かったからって何がどうなるでもないけ――
――パキン。
剣の折れる音が響いた。
その音の先にいたのは遥君のスキルを噛み砕いたさっきよりも大きくなった竜。
「開戦ね。……模倣:大劣化神測」
こちらを睨む竜を対象にまずはスキルを発動。
どれくらいの強化がなされたかの確認をする。
できればハチさんに戦ってもらうことがなく、私でも多少傷を負わせられる程度の強さならいいんだけど。
それくらいならちょっと手間はとらせることになるけど 最後に遥君に止めを差してもらえるから――
『対象の対応適正レベル7000。補完……レベルアップまでの必要経験値減少』
「7000!? こんなの遥君でもハチさんでも……」
「あがっ!」
竜は私を見て笑った。
そして自ら戦うまでもないと判断したのか、自身の影を切り取ってダミーを作成。
その数は、5。
私の視界を簡単に埋め尽くす量。
きっと同時にスキルの強化も行われたのね。
でもむしろこれはレベルアップできるチャンスをもらったと思うべきかもしれな――
「お前、どうして! どうしてまたお前だけ強くなるんだ! あ、スキルは消えてるじゃないか! さっさと加勢しろこの駄竜!」
竜のダミーと対峙しようとしていた時、その背後から慎二の焦りが混じった怒鳴り声が聞こえてきた。




