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124話 【陽葵視点】嘘つき

「遥君……」


 遥君と慎二、それに魅了を受けてしまった火竜による戦いが始まった。


 とはいえ遥君のスキルで火竜の動きは止まっているから実質は2人の一騎打ち。


 互いに放つその拳はぶつかり、生々しく痛々しい音が響く。


 遥君の表情には余裕が見えるけど、ダメージは明らか。


 割り込む?

 いえ、万が一魅了をかけられたら遥君の枷になる。


「あいつは私も思いっきりぶっ飛ばしたかったけど、仕方ないわね。その役目は全部遥君に任せるとして?私は……こっちのフォローかしら」


 未だに攻撃を受け粘る火竜。


 これを倒せば向こうの戦いも有利になるだろうからなるべく早く倒してしまいたいところね。


 お腹の辺りは鱗があまり生え揃っていないようだからあそこを狙って……でも相手を怯ませるなりなんなりしないと反撃が怖いわね。


「となれば……ハチさん! 前よりも多く神水をお願い! ちょっとしんどいかもしれないけどこれを倒せばもう勝ちも同然! 火竜を仲間にっていうのは無理になってしまうけど、今は――」

「駄目。神水は使えない。使わせられない」


 ハチさんの思いがけない一言。


 私や遥君が考えている以上にハチさんはこの火竜に大きなトラウマを植えつけられているみたい。


 多分いざ反抗することになったら恐怖が襲い掛かってきたんだと思う。


 気持ちは分からなくもない。

 慎二の魅了。私もそれを考えるとぶっ飛ばしたい気持ちとはまた別に怖いって気持ちが沸き上がって……ちょっとだけ躊躇してしまいそうになるもの。


「ハチさん。怖いのは分かるわ。でもね、今はあなた1人じゃない。私や遥君、それにダンジョン街にも仲間はいる。だからもしハチさんが攻撃に加わったことがきっかけで火竜が怒り狂って私たちを越える力を発揮したそのときには、まず私たちがなんとしてでもハチさんを連れて街に逃げるわ。それで街に着いたら火竜を出迎えてみんなで攻撃。そうして一緒に倒せる道もあるの。だからそんなに怖がらないでも大丈夫。気持ちに少しでいいの、勇気を滾らせ――」

「ありがとう、陽葵。でもね、違うの。そうじゃないの。私が神水を与えられないのは。今は魔力を体力を豪華に消費していい、そんな場面じゃないの。それに、私はもう魔力を貸せる状態にない。全部練ってる途中で……。とにかく今は『あの竜』は無視。暴れるようなら戦う程度で構わないわ。それよりも陽葵は私を――」


「――美人さん2人で何をしているんですか?実は俺もやることがなくてね。その話……ちょっと混ぜてもらっても?」


 目の前に現れた黒い穴。

 いつものワープスキル。そしてさっきも見たその使用者。


 でもその顔は前に見たときよりも不気味に笑っている。


「女子トークなんだから当然男子は禁制よ」


 鳥肌が立ち、汗が滲む。

 それを誤魔化すように私はそう言い放つと、いつでも戦闘に入れる構えをとる。


「……。俺、基本戦うのは専門外でしたくないのよ。だから力をねだらなかった。そんで、多分そんな性格と便利なスキルこの2つが気に入ったんだろうな。あの竜は『俺だけ』にその姿を見せてくれた。何でも好物を直接食うとき以外ではかなり久しぶりだったんだと」

「なに、言ってるの?竜はそこにいるじゃない」

「陽葵、あれはね――」

「そう。あれは偽物。俺以外の全員は偽物から力を借りて、その実食われている。というか犯されている。きっと完全に竜になるそのときまで、ダンジョン街を制圧して地上で楽園を築いて、それ全部を、自身の身体をも俺と本物に支配されるそのときまできっと気付かないんだろうさ」

「あなた……」

「とんだリーダーね。虫酸が走るわ」

「あははは! なんとでもいいなよ! なんなら攻撃したっていい! ただ注意することだね。俺はあいつの寵愛を受けている特別な存在。最悪の場合君たちも食われるよ。当然それはあいつに挑んでも同じね。……てなわけでそんな物騒なことはやめやめ!」



 ――にょん。



 にこやかに笑って見せる男。

 その笑顔にどこか違和感を感じた瞬間背後から限りなく0に小さくその音は聞こえた。


 だから私はハチさんに代わって剣を抜いた。


「さ、みんなで楽しく観戦でも――」



『――気刃十文字(キルクロス)

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