123話 なめるな
「硬質化:拳集中」
「超身体強化」
慎二の拳に厚く鱗で覆われた。しかもその腕はサラマンダーの力を借りているためか肥大化。
爪や色までも竜のそれに変わって俺の目の前まで迫った。
対して俺は避けるでも何でもなくスキルで体を強化してその拳に自分の拳をぶつけていく。
「う、ぐ……」
「馬鹿が! その程度のスキルで俺のこの攻撃を防げるとでも思ったか!」
鱗の強度、攻撃力、重量、そのどれもが高いのは理解している。
それでも真正面からぶつかるのは俺の純粋な力でねじ伏せたい、その顔をぶん殴りたいという欲求があるから、だけではない。
俺はこの戦いでさらに高い次元に、今の慎二を飼いならせるくらいの実力者になりたいんだ。
「ぐ、おおおおおぉぉぉおおおぉぉおお!!」
「な!? 少し……押し返してきた、だと?」
拳にめり込む鱗。
当然ダメージはあるし痛みも強い。
だけどこの程度で怯むほど俺は柔じゃない。身体も精神も。
過酷だったハチとの戦い、レベル100達成後の強くなれなくて馬鹿にされた日々、低ランク探索者として生きてきた人生。
「こんなのより痛かった、辛かったことは山ほど……。それに俺は1回死んでるんだ。なめるなよ、慎二」
「はっ! ちょっと押し返しただけで調子に乗るな! むしろお前には死ぬ気で力を込めても俺の攻撃を跳ね返す程の力がないってのが分かった! それに強がったところでダメージは消えないんだよっ! ほら! そっちの腕、その身体、全部ぼろ雑巾のようにしてやる!」
慎二は1度その腕を元に戻すと、勢い余って前傾姿勢になった俺に近づいてきた。
俺の左腕を狙ったシンプルな回し蹴り。
道場に通っていたときにも感じたことだが、意外にも慎二は戦闘に長けている。
魔法やスキルに頼った戦闘よりも実はこういった近接戦の方が慎二にはあっていると感じるほど、そのセンスは高い。
緩急を用いた攻撃、引き時、誘い受け、きっと他人を自分の流れに持ち込むことが本来慎二の持ち味で、だからこそ魅了という引き込む力を持ったスキルが発現したんじゃないだろうか。
――バキ。
「まずは1本……。痛いだろ? 喚けよ! 懇願しろよ! 負けました! もうやめてくださいってなあっ!」
「だがそのマウンティング癖は命取りになる。それでいて強くて器用なのがかえってその悪性を助長させる」
「あ? 面白くない……。その反応、ちっとも面白くねえんだよ! お前は俺より雑魚! カッコつけんじゃねえ!」
優位に立ったと思った瞬間に慎二は手を止めて口を開いた。
そして俺の煽りに反応を示し今度は両手を変化、硬く組まれたそれは俺を押し潰さんとする。
怒りに身を任せた範囲の広いその攻撃は確かに強力、だが超身体強化を発動させている俺にとって避けることは容易い。
この攻撃は完全に隙。慎二の性格がもたらした大きな隙。
「な!? おま、腕が折れているはずだろ――」
「さっきも言っただろ。なめるな、ってな」
――バキ。
慎二の顔に俺の拳がめり込む。
鼻の骨が折れる音が響き、慎二は後方に飛ぶ。
また同時に俺の拳にはまた強烈な痛みが襲う。
「……。痛い。痛い痛い痛い痛い痛いっ! くそくそくそくそくそ! なんで! 俺は直前スキルを使った! それなのに! 痛みに強いだけでなんでその拳を振りきれる!」
「……スキルのこれ、鱗は確かに刺さってる。だから痛いは痛いさ。多分さっきまでの根性論じゃどうにもならないくらい」
「じゃあなんで!」
「気持ちよかったから」
「え?」
「痛みよりなによりも慎二、お前を殴るのが気持ちよくて……痛みなんかどっか飛んじまった」
「……。はっ。なんだ、焦って損したぜ。お前は狂人なだけ、ダメージもあるし……倒すことは可能。くくく、有利なのは俺! それは変わらない! さっきみたいに一撃をもらうことはもうない! スキルも攻撃力も攻撃範囲も防御力も俺の方が上なのは明白なんだ! 冷静に、確実に……もう殺してしまおうか」
「ふふふふふ。あはははは!」
「……。不可だな、その笑い。一体何がおかしい」
「いや、その通りだ。今のままなら俺は負けるかもしれない。だけどな……俺には、俺だけにはあるんだよ」
「何が?」
「あり得ないくらいの、伸びしろがさ」




