121話 今度こそ
「慎二……」
「並木、遥……。ふふ、それにしてもあのランク10の探索者と影を突破してくるなんて思わなかったな。それだけ自信はあったし、正直焦ったよ」
「それはどうも」
「ま、でも影のスキルを維持するのは体力的にもしんどいみたいだし、地上の影に効果を及ぼすためには……早めに引く判断も必要だった。結果あれでも良かったのかなって。こうして『こいつ』の力を完全に支配できたことでそう思えるようになった……」
「こいつ……その火竜がお前らが時間を稼いでた理由か」
「御明察。強化された魅了でもこいつ強情でさ、かなり時間がかかったんだよ。でも、もう時間稼ぎはいらない。死んだやつもいるみたいだけど、その価値はあった」
「仲間が死んだってのに……。よくそんな表情ができるもんだな」
「仲間? あははは! 利害関係さえなければこんな奴らはゴミ。死のうがどうなろうが構わない。反対にこいつらも俺のことをそう思ってるはずさ。だろ?」
「まあな。それより橋田と……そのモンスターたちを早く始末してくんねえかな。いつ暴れ出すかわかったもんじゃないからよ。そんぐらい簡単だろ?」
「あははは! 了解了解! ほら、それも後ろのも食っていいぞ。ただ探索者3人は少し待て」
慎二は嬉しそうな表情を見せるとその背後にいたモンスターの顔を撫でた。
『サラマンダー』
看破によって見えたモンスターの名前。
身体の大きさはもとより雰囲気が他のモンスターとまるで違う。
さっきの声もこいつによるもので、先に走って行ったモンスターもきっとここで食われたのだろう。
「や、だ。やめろ。やめてくれ。俺はまだ、死にたくな――」
――ゴク。
サラマンダーはその大きな口で橋田を咥えたかと思えば高く放った。
そして落ちてくる勢いを利用して橋田を丸飲み。
蛇ほどではないが細長い身体なため、橋田が移動しているのが外からでも何となく分かる。
「げふぅ」
「……。……。……。ぐ……。おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
橋田が飲まれるとサラマンダーの放つ強者の雰囲気によってしばらく動きを止めていたであろうモンスターたちが一斉に動き始めた。
何もしなければああなってしまう。なら、勝たなければ。勝たなければ、死ぬ。
そう野生の感が彼らを駆り立てたのだろう。
だがそれはサラマンダーにとって餌が自ら突っ込んできてくれるようになっただけに過ぎない。
顔だけでなくサラマンダーの身体のそこら中に口が出現。
グロテスクな風貌となったサラマンダーは近づいてきたモンスターたちをその口で次々に捕食。
モンスターたちの攻撃は橋田のそれに似た鱗により弾かれ無意味。
おそらくはさっきの捕食でスキルまで飲み込んだのだろう。
そう考えればここに慎二とリーダー以外の人間が、影スキルを使う人間がいない理由も納得がいく。
食ったんだ。その人間と影スキルを。
つまりこいつを倒さない限り影は消えない。
「ぐ、ぉぉおお――」
「おいおい逃げるのは悪手だぞ、モンスター」
逃げようとする個体はその長く別の命でも拭き込まれたかのように動く尻尾に捕まり一瞬で飲まれる。
慎二はそんな様子を楽しそうに眺める。
サディストとしては満点の反応だ。
「――げふぅぅ」
あれだけいたモンスターをサラマンダーはあっという間に食い切ってしまった。
竜ってのは全員ハチみたいに人間らしさがあるもんだと思っていたけど……。
「化け物……」
「橘陽葵……。安心しろ。お前は今度こそ完全に魅了して……こいつと同じ、俺のペットにしてやるからよおっ!」
息を飲み汗を流す陽葵さん。
この光景を見てしまえばこうなるのは仕方ない。
現にあのハチですら黙ったまま。
震えて動けないのか戦う素振りも見えない。
「――そろそろこいよ。並木遥。今度はきっちり殺してやるからよ」
「……。仕方ない、か。ここは俺が頑張って、その恐怖を払拭させてやる! ただその前に……『神測』」




