119話 【苺視点】 声の主
「あー、あのレベル100……。なんか強くなってランク上がったとか言ってた人か。でもあれ急過ぎてちょっと怪しいんだよなぁ。というかそんな人を向かわせたのかよ探索者協会は……」
ざわつき始める周囲。
イライラは収まるどころかどんどんどんどん高まる。
……これ、ちょっと分からせてあげようかな?
「……お前なんかよりよっぽど強くて、悔しいけど私よりも強い。そう、この私よりっ――」
「ちょ、ストップストップ!苺、今敵はダミー!あの影!ほらさっさと中に――」
――パリン。
「雑魚は殺す。使えそうなのは、奴隷にする」
低ランク住宅区前。
私がスキルを発動させようとした瞬間、誰かが発動させていた防御スキルが破壊された。
ランク10の人の中には魔法で作るものとはまた違う、既にそこに存在している物質、空中に漂う塵や埃等々を圧縮、さらにはそれを自分の身体の一部のように強化することで高度な障壁スキルを持った人がいるけど……ここで使われていたスキルは似てるだけ。
あの硬度には遠く及ばない程度のものだったみたい。
偉そうなわりに役立たず。
「というかやっぱり他も見た目が変わって……。メロリン。武器を――」
「遅い」
「まずい! 狙いは後ろか!」
ダミーはその尻尾状の脚を先端だけ影に変えていた。
そうして伸ばされた影はいつの間にか私たちの背後、低ランク住宅区を隔離しようと群れる人たちの中に。
「ぼ、防御しなきゃ、『厚髪壁』。くっ……きゃあっ!」
容赦なくその尻尾は女性を叩こうと振り下ろす。
それに対して自身の髪を伸ばして壁を作る変わった防御スキルを発動。
間に合ってるけど、これも柔らかい。耐えられそうにない。
もう私がどれだけ急いでもそっちへの直接攻撃は届かない。助けてあげられる暇はない。
「『すさ――』」
「――『制御緩和』」
咄嗟に『荒』を発動させようとするとどこからか声が聞こえた。
合わせて頭がすっきりと晴れ渡る。
お陰か視界がいつもより明るくさえ見える。
さっきの、新しくスキルを獲得した時と似てる。
「なに!?」
「私の髪……。艶が急に。でも、なにこれ……。頭が痛……」
途端状況は一変。
女性の髪の壁が攻撃を跳ね返した。
理屈はわからない。けどとにかくこの人はスキルが強化されて、ダミーに隙ができた。
「『荒』」
「ぐ、あっ! なんだこれは!」
「しばらく動かないでいて」
「……もっと、もっと力が必要か……。強化を、強化を急がせな――」
スキルを発動させて言葉を発する。
全体的に動きは止められたけど、指を怪しげに動かしていたからそれを狙って、切断完了。
でも倒しきれはしない。痛そうな顔もしない。
ただ、不適に笑ってる。
『――あんまり手を出しちゃいけないって話だったけど、まぁセーフだよな。これくらい。にしてもラッキー。女がスキルの対象で』
さっきと同じ声。
小さい声での独り言。
私のスキルで周りの人たちがふらふらになって、話し声も減ったから余計に目立つ。
そして私はその声の主を探して視線を動かした。
声の主、それはなんの変哲もない男。
強いて言えば着ているものとか身に付けてるものが少し高そうなくらい。
当然顔に覚えもなければ声だって初めて聞いた。
恨みがあるわけでもない、そのはずなのに……。
なんで私はこの男がこんなにも、憎いのだろう。
「い、苺。な、ナイス!早く、中に」
「……。ふらふら。面白い」
ふらふらの宮平の顔を見て、そんな感情には蓋。
私たちは遥たちが仕事をこなすまでこの街を守るため、本格的に戦闘に踏み出した。




