118話 【苺視点】 腹立つ
「スキルの影響かな? まぁそうやって髪を掻き分けなければそんなに目立たないし……。あ、ちょっと引いてきてる、ような……」
「ん……」
宮平は私のこれをそれとなくフォローしてくれた。
急な異変が起こって私が不安がってるって思ったのかもしれない。
でも不思議と私自身これに違和感というか嫌悪感みたいなものはない。
なんでかむしろ懐かしいような、しっくりくるような――
――ドンッ!!
「この音……。宮平、嬢ちゃん、悪いがそれの治療? はまた今度!出入り口まで走るぞ!」
「ん……」
「はい」
破裂音。
ここまで衝撃は届いてない。
発生場所が遠い証。だけど、それでも音ははっきりと聞こえた。
かなり威力の高い魔法かスキルを使った。
今のダミーはそれが使える。
そう考えるのは錦も同じなのか、走る速度はだんだんと速くなってこっそりとついてきているメロリンたちの息遣いは荒くなる。
――そして更正施設の出入り口。
「これは派手にやられたな」
「はい。それでもってダミーは全員外。それだけじゃなく他の囚人も……。ダンジョン街は混乱必死。はあ……。これを防げなかったから俺も責任負わさせられるって全然ありそうなんですけど……」
「私は……悪くない」
「いやいやいや、連帯責任だろこういうのはよお! ま、でも安心しろ万が一檻にぶちこまれてもその時はおかず少し分けてやるから」
「なんで俺たちまで罰を、しかも犯罪者というわけでもないのに檻に入れられないといけないんですか! ……。こうなれば遥君たちがダミースキル、影スキルの大本を倒すまで俺たち主導でダンジョン街を守るしかないですね」
「だな。じゃあ探索者協会には俺が報告しておく。2人は先にダミーと囚人たちの拘束、それに避難の呼び掛けを頼む。お、久々の外は空気がいいな!」
「錦、呑気」
「辛気臭いままじゃ身体は動かないからな!そんじゃまた後で合流と行こうぜ! いいか、期待はしてるが無理だけはするな」
「了解です」
「ん」
錦はニコッと笑うと探索者協会まっしぐら。
私と宮平は取りあえずダミーの拘束のために辺りを見回す。
ダミーは影。
隠れるのが得意。
その気になればひっそりと確実に街の人を殺したり、さらにダミーを増やせる。
それを私たちは危惧してたんだけど。
――ドゴン!
「早速、か」
「隠れるつもりがないのは、ありがたい」
遠くから爆発音が響き、煙が立ち上った。
音がしたのは多分低ランクの住宅区。
1番戦闘に長けていない場所。
私たちは最悪の事態も想定して急行。
早速住宅区に入ろうとしたんだけど……。
「――おい! 低ランクの区を早く隔離だ!」
「こっちにまで被害が出ないように! 防御スキル持ちは早くこっちに集まって!」
高ランクっぽい人たちが必死に低ランクの住宅区を囲うようにしてスキルを発動していた。
異様な光景だけど、この街じゃ普通のこと。
分かっているはずなのに、前までは大丈夫だったのに、今はどうしようもなく腹立たしくなってしまう。
「……退いて。私たち、中に入る」
「あっ? なんだお前?子供が戦うってのか?」
「子供……」
「苺、どうどうどう。ここは俺が代わるから。ごほん
!あ、あのどうもどうも。私たちこれでもランク10の探索者でして、実は更正施設から脱獄した人たちとそのスキルで作られた……まぁなんというかモンスターみたいなのが暴れているんです。なので皆さんは早く避難を」
「ランク10!?そりゃあ失礼した。となりゃあもう事件は解決したようなもんだな」
「いや、それがそういかないかもで……スキルの主は別の場所にいまして、今別動隊が捕縛に向かってるのですが、それが上手くいかないことにはモンスターは消えないんですよ」
「え!? じゃあそっちにも頑張ってもらわねえと。それでそっちにもランク10の探索者が向かったのか?」
「それは……」
「並木遥。ここの住人が向かった。あなたたちが見捨てようとした場所に住む人間があなたたちのために戦ってるってこと」




