116話 【苺視点】痛く、ない
「今のって……」
『――パッシブスキルが一部解放されました。ステータスが通常に戻りました』
「アナウンス……。久々。でも、なんで? そういえば頭痛、もうない――」
「危ない苺っ!」
疑問解消のためにステータスの確認をしようと思ったのに……。
このダミー、強化された状態でもこの2人相手は難しいと思ったみたい。
戦闘に参加してない私を狙ってきた。
完全に舐められてる。むかつく。むかつくけど……スキル、もう間に合わない。
「防御。私には似合わないけど」
「まずはお前を、殺すっ!」
両腕を前に出して顔を覆うようにする。
ダミーはそんなことは気にせずその長い尻尾を叩きつけてきた。
びっしりと生え揃った鱗はざらざらとしていて、ところどころ棘のように尖っている。
叩かれば絶対痛い。肉がえぐられるかも。そう思ったけどなんでか、棘が刺さりはしない。
「それに、痛くない」
「な、んで? 全力で殴ってるのに。死ね、死ねよ! 見た目通り弱くあれよ! 見た目通り、見た目、通、り?」
「?」
私の顔に何かついてるのかな? ダミー、不思議な物を見てる顔してるけど。
「その床は軟体物と誤解する」
「『身体強化』を更に、重ねる! おしゃべりな口ごと容赦なく潰すぜ、その頭」
ダミーの顔をずっと見てると床がグネグネ、粘土みたいに動いてダミーの身体に巻き付いた。
一瞬身動きがとれなくなったダミーはその身体を影に変えようとした、けど錦は逃げることを許さずに両手を組んでその頭を全力で叩いた。
――べじゃ。
骨が折れるような音はしない。
したのは豆腐とかプリンとか柔らかいものがつぶれた音。
そんな音のイメージ通りダミーはどろりと黒い液体上になって地面に落ちた。
「これでしばらくは復活しない、のかな?」
「今までのパターンならそうだな。だがこいつ、今までとは明らかに様子が違った。お前さんは耐えきったが、さっきの攻撃……宮平が受けてたら死んでたかもな」
「いややいやいや、流石にそこまで防御力紙じゃないですって。でも苺、傷1つないってそれ……レベルアップ? いや新しく何かスキルでも獲得した?」
「レベルアップはしてない。スキルは獲得、というか解放? されたんだって。でも今の、スキルは関係ない――」
――ジュル。
「……やってくれたな。お前たち。俺たち、影だからって痛みはあるんだぞ。まぁでもそのお蔭で、俺はまた強くなれた。ありがとうな。ふひひ、そんじゃあ……『影泥棒』」
「あっ……」
「しまった!」
「ダミーがスキルを使うねぇ。これは流石の俺でも焦るわ」
黒い液体となった影は油断している私たちにあっという間に近づくと身体を形成。
さっきよりもおしゃべりになって私たちの影に触れた。
すると現れた私たちのダミー。
強化された状態ではないけど……これが外に出たらまずいって、それくらい私でも分かる。
こいつは絶対逃がしちゃいけない。
「まずは出口を房がないと。メロリン武器を――」
「遅いって。もう仲間もスキルに目覚めた。あとは任せたぞお前たち」
――にょん。
スキルを覚えたダミーはそう言うと突如現れた穴を潜って消えた。
残ったのは自分たちの姿をしたダミーだけ。
「ヤバいな。あの口ぶりだと他の奴らもスキルを獲得して……更生施設を出るだけじゃなくてダンジョン街の人たちに大きな被害が出る」
「だからってこいつらを放っておくのもヤバいですよね。多分ほっとけば俺たちのスキルを覚えますよ」
「殺せない、しかも硬直時間も無くなったなら拘束するしかないが。影になられると縄とか錠は意味なし、だな。うーん。どうしたもんか」
「――あ、あがあああああああああああっ!」
頭を悩ませているとダミーが襲ってきた。
とにかく戦わないと、弱い状態だからって一方的に殴られるのは良くない。
「ききゃっ!」
「ありがとメロリン。……。すさ――」
メロリンから斧を受け取ってスキル発動。
いつもみたいに一撃を放とうとしたんだけど、それよりも前に身体が強く細かく速く振動。
ビリビリと肌が痺れるような感覚を帯びると、攻撃の対象にしていた3つのダミーは私以上に震え……動けずにいた。




